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登山ブームに潜むリスクに注意!普及進まぬ登山保険
● 御嶽山の噴火による人的被害は生命保険で保障
  日本列島では各地で火山活動が活発だ。気象庁ホームページの「火山登山者向けの情報提供ページ」によると、7月8日現在、噴火警戒レベル対象火山(規制以上)が全国で10山指定されており、最高のレベル5(避難)が鹿児島県の口永良部島、レベル3(入山規制)が鹿児島県の桜島と神奈川・静岡県境の箱根山、レベル2(火口周辺規制)が岐阜・長野県境の御嶽山はじめ7山ある。
  昨年9月の御嶽山噴火の影響が登山用具などを扱うアウトドア店の売上げに現れはじめている。ここ数年の登山ブームで活況だった登山用品業界だが、販売店に取材したところ、売上げが目立って落ち込んでいるという。
  ちなみに一般的な生命保険、登山保険(山岳保険)の場合、噴火は免責条項に該当する。御嶽山の噴火では死者57名、行方不明者7名、負傷者69名という人的被害がでた。この遭難で生命保険は、すべての生命保険会社が御嶽山噴火による免責条項等の不適用を決定している。
● 遭難捜索・救助費用をカバーするなら登山保険
  それでも人気のある登山だが、遭難リスクは愛好者が思っている以上に大きい。警察庁生活安全局地域課の「平成26年中における山岳遭難の概況」によると、1年間の山岳遭難は2,293件発生し、遭難者数は2,794人で、このうち死者・行方不明者は311名だった。10年前と比べ遭難者数は65.9%も増加している。
  年齢別で見ると、40歳以上の遭難者は2,136人(全遭難者の76.4%)、60歳以上に絞ると1,401人(同50.1%)もおり、このうちの死者・行方不明者では、40歳以上が286人(全死者・行方不明者の92.0%)、60歳以上に絞ると214人(同68.8%)と、遭難者、死者・行方不明者ともに高齢化が著しい。
  こうした遭難時における遭難捜索・救助費用をカバーするのが登山保険(山岳保険)だ。遭難救助で民間ヘリコプターを使うと、1時間当たり数十万円の費用が請求される。また民間救助隊を依頼すると1日あたり数万円の費用がかかるため、捜索活動が長期化すると費用の総額が数百万円になることもある。
  しかし一般の旅行保険や傷害保険ではカバーされておらず、登山をするときには登山保険の加入が必要だ。ところが加入率はとても低く、正確な統計値はないものの、登山関係者によると「加入率は全登山者の1%未満ではないか」という。
  一般的に登山保険として紹介されているものは、普通傷害保険や国内旅行傷害保険に登山中の事故に対して特約が付帯されているものだ。ただ、死亡については生命保険に加入していれば給付されるので、登山保険は「救援者費用」と「遭難捜索費用」の保障を中心に検討することで保険料を抑えることが多い。
  前述の警察庁のまとめによると、遭難理由の約4割が道迷いだ。単独登山者の死亡・行方不明者数は複数人登山の約3倍にのぼる。登山保険で遭難費用に備えることも大切だが、自らの技量・体力・経験に合った計画を立て、地図とコンパスを必ず携帯し、自らを過信せず、天候などの情報を積極的に収集して慎重に行動することで事故を未然に防ぎたいものだ。
参照  : 気象庁HP「火山登山者向けの情報提供ページ」
  
安藤 啓一 (あんどう・けいいち)
福祉ジャーナリスト。
千葉県出身。大学卒業後、新聞や雑誌記者を経験した後、介護福祉誌の編集長を経てフリーに。パラリンピックや障がい者支援、高齢者介護、医療経営、子育てなどの分野を中心に取材活動をしている。医療、介護と縦割りになりがちな情報を、当事者の目線にこだわり、地域発想、現場重視で「横串」編集することを心がける。鳥取県の「介護ガイドAi」(鳥広マガジン)は、編集を担当。介護テキスト、医療経営誌、介護専門誌などで執筆している。また3人娘の父親として、子育て支援活動にも取り組む。
  
  
2015.07.13
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