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平成26年度査察の脱税総額は約150億円と低水準
● 着手件数は194件で5年ぶり増加
  いわゆるマルサと呼ばれる査察は、脱税でも特に大口・悪質なものが強制調査され、検察当局に告発されて刑事罰の対象となる。
  国税庁が7月に公表した「平成26年度 査察の概要」によると、査察で摘発した脱税事件は前年度より9件多い194件で5年ぶりに増加に転じた。脱税総額は前年度を3.6%上回ったものの約150億円と低水準だった。これは、脱税額3億円以上の大口事案が6件と2年連続1ケタ台だったことなどが要因とみられている。
  今年3月までの1年間(平成26年度)に全国の国税局が査察に着手した件数(194件)のうち、180件を処理(検察庁への告発の可否を最終的に判断。継続事案を含む)し、62.2%に当たる112件を検察庁に告発した。この告発率62.2%は、前年度から1.6ポイント減少し、38年ぶりの低水準だった平成23年度(61.9%)に次ぐ低い割合だった。
  告発事件のうち、脱税額が3億円以上のものは6件にとどまった。近年、脱税額3億円以上の大型事案は減少傾向にあり、平成26年度の脱税総額150億円は、ピーク時の昭和63年度(714億円)の約21%にまで減少している。告発分の脱税総額は前年度を約6億円上回る約123億円、1件当たり平均の脱税額は1億1,000万円と、35年ぶりに1億円を下回った前年度を1,100万円上回った。
● 業種では「クラブ・バー」を押さえて「不動産業」がトップに
  告発分を税目別にみると、法人税が69件(対前年度5件増)で全体の61%を、脱税総額でも約75億円で61%を占めた。所得税は18件(同横ばい)で脱税総額は約18億円、消費税は13件(同3件減)で脱税総額は約11億円、源泉所得税は10件(同4件減)で脱税総額は約14億円と、法人税のみ件数が増加した。
  告発件数の多かった業種・取引は、「不動産業」が16件でトップ(前年度は9件で2位)、次いで「クラブ・バー」が10件(同12件で1位)、「建設業」が8件(同5件で3位)、「運送業」と「広告業」が各4件で続く。「不動産業」では、売上除外や架空の経費を計上していたもの、「クラブ・バー」では、ホステス報酬に係る源泉所得税を徴収していながら未納付だったものが多い。
● 査察での告発事案は98%有罪、11人に実刑判決
  平成26年度中に一審判決が言い渡された件数は98件で、そのうち96件に有罪判決が出され(有罪率は約98%)、うち11人に対し執行猶予がつかない実刑判決が言い渡された。1件当たりの犯則税額は6,900万円だったが、平均の懲役月数は15.9ヵ月(最高は3年)、罰金額は約1,600万円だった。
  査察の対象選定は、脱税額1億円が目安といわれ、また、脱税額や悪質度合いの大きさが実刑判決につながる。査察で告発されると、社会的信用を失うだけでなく、巨額な罰金刑や実刑判決もありうる。ちなみに、刑罰は10年以下の懲役、罰金は1,000万円(脱税額が1,000万円を超える場合は、脱税相当額)以下となっている。
参照  : 国税庁HP「平成26年度 査察の概要」
  
浅野 宗玄(あさの・むねはる)
株式会社タックス・コム代表取締役
税金ジャーナリスト
1948年生まれ。税務・経営関連専門誌の編集を経て、2000年に株式会社タックス・コムを設立。同社代表、ジャーナリストとしても週刊誌等に執筆。著書に『住基ネットとプライバシー問題』(中央経済社)など。
http://www.taxcom.co.jp/
○タックス・コム企画・編集の新刊書籍『生命保険法人契約を考える』
http://www.taxcom.co.jp/seimeihoujin/index.html
  
2015.07.27
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