>  今週のトピックス >  No.3068
地域包括ケア病棟の機能強化に向けて
● 急性期病棟から在宅へ送り出すためのクッション的役割
  平成28年度の診療報酬改定に向け、中央社会保険医療協議会(中医協)において、診療報酬調査専門組織での議論が続いている。要するに、平成26年度の報酬改定によって、現場医療にどのような影響が生じているかを検証する場といえる。さまざまな報酬項目が対象となる中、前改定で新たに誕生した地域包括ケア病棟をとりあげてみよう。
  この地域包括ケア病棟は、平成26年9月30日をもって廃止された亜急性期病床に代わって誕生したもので、専任の在宅復帰支援担当者の配置などを要件としている。また、より高い入院料・入院医療管理料(カテゴリー1)を算定する場合には、退院患者(死亡退院を除く)のうち、7割以上の在宅復帰率を確保することが必要となっている。
  ちなみに、川上にあたる急性期の一般病床でも、看護師配置の手厚い7対1病棟で「在宅復帰等の割合」が要件となっているが、この中の行き先に「地域包括ケア病棟」も含まれている。つまり、急性期から一気に在宅復帰に至らせるのが難しい場合、この地域包括ケア病棟をクッションとして位置づけることが可能というわけだ。そのため、今回の検証データを見ると、地域包括ケア病棟においては、亜急性期病棟からの転換のみならず、一般病床の一部を転換させる動きも見られる。
  いずれにしても、急性期を中心とした病床再編において、一般病床改革と地域包括ケア病棟の創設をワンセットで機能させることにより、病院から在宅への移行を加速させるしくみが整ったことになる。しかし、「在宅への送り出し」だけを加速させても、慢性疾患の悪化リスクが高い高齢患者が増える中で、十分な在宅療養の体制が整わなければ、患者やその家族の不安を高めることになりかねない。
● もう一方の「在宅を支える」機能の拡充が課題に
  実は、地域包括ケア病棟においては、そうした在宅における病状の悪化リスクの受け皿(在宅からの緊急時の受け入れ先)という位置づけもある。実際、地域包括ケア病棟の算定要件として、@在宅療養支援病院の届出、A在宅療養後方支援病院としての実績、B二次救急医療施設の指定、C救急告示病院のいずれかをクリアすることが求められている。
  しかし、今回の調査では、入棟前の居場所が「自宅」であるケースは12%にとどまっている。これに対し「自院の急性期病床」(59%)、「他院の急性期病床」(18%)が大半を占めている(平成26年度入院医療等の調査(患者票)より)。「送り出し」の機能は果たしているが、「在宅を支える」というもう一つの機能が十分とは言い難い状況にあり、これでは地域包括ケアの名が看板倒れになりかねない。
  なぜそうした課題が生じているかといえば、医療処置の実施状況が急性期病床に比べて低く、ほとんど回復期リハ病棟と変わらない状況にあることが背景にある。つまり、病床の治癒を目的とした機能が十分に働いていない点が、本来の「地域包括ケア病棟」の姿をゆがめているという状況が浮かんでくる。
  そこで、今回の検証において、現在は入院料に包括化されている「手術料や麻酔料」を包括外としてはどうかという論点が掲げられた。手術料等を包括外とすることにより、簡単な手術などへのインセンティブが働けば、緊急時の「在宅からの受け入れ」が進むという狙いがある。患者にとって、この地域包括ケア病棟が「在宅の安心」を高めるものとなるかどうか、今後の議論に注目したい。
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第2章 まず、最も利用者の多い訪問・通所介護を掘り下げよう
第3章 特養ホーム等、施設の基本報酬ダウンと中重度者対応への重点施策
第4章 在宅系サービスでは、“重点化”はどう反映されたのか
第5章 国の最重要施策“認知症”対策と介護保険との関係はどうなるのか?
第6章 手厚く加算されたリハビリ・マネジメントの強化で仕事はどう変わるのか
第7章 介護職員の処遇改善はどのように進んだのか
第8章 総合事業による介護保険の「スリム化」そして“重点化”にどう対応したらいいのか
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2015.08.17
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