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社会保障制度に関する国民の直近意識は?
● 年齢層によって充実を求める分野に大きな差
  給付の効率化と重点化を柱とした医療・介護をはじめとする社会保障制度改革が進む中、平成27年8月28日に、厚生労働省より国民意識に関する調査結果が公表された。
  タイトルは「社会保障制度改革に関する意識等調査報告書」。調査実施は2年前の平成25年7月なので、平成26年度の診療報酬改定、平成27年度の介護報酬改定などの影響がおよぶ前の調査となる。だが、直近における社会保障制度への国民の意識がどうなっているのかを知るうえでは、貴重な資料となりそうだ。
  ポイントはいくつかあるが、まず注目したいのが「今後充実させる必要がある」と考える社会保障分野について(複数回答)である。これによれば、トップ3は「老後の所得保障(年金)」(64.5%)、「高齢者医療や介護」(51.7%)、「医療保険・医療供給体制など」(40.6%)となっている。「子ども・子育て支援」や「雇用の確保や失業対策」がその後に続いているが、いずれも3割台にとどまっている。
  ただし、注意したいのは、年齢層によって充実を求める分野に大きな差があることだ。たとえば、全体ではトップの「老後の所得保障(年金)」については、最も高いのが50〜59歳の72.0%に対し、29歳以下だと45.2%と約27%もの開きがある。対して「子ども・子育て支援」になると、30〜39歳で6割に達している一方で、65歳以上になると2割以下に落ち込んでいる。高齢者層でも「孫世代の支援ニーズ」はあるはずだが、この数字格差を見ると、やはり「世代間の支え合い」よりも「当事者意識」が先に立ってしまうのかもしれない。
  また、男女の意識格差が見られる部分もある。例えば、「高齢者医療や介護」の分野を見ると、男性よりも女性の方が「充実を求める意識」が5ポイント近く高い。男女の平均寿命差なども影響している可能性はあるが、療養・介護ともに在宅ベースとなりがちな状況の中で、家族による支援を主に女性が担わざるをえない現状が反映されているともいえる。
● 国民意識の根底にあるのは「本当に必要な支援の拡充」
  興味深いのは、「充実を求める」分野と、一方で「給付の効率化を進めるべき」と考える分野との相関である。充実を求める分野であれば、効率化は避けたいと考えるものと思われがちだが、この2つの回答が案外と連動している。たとえば、「老後の所得保障(年金)」を見ると、給付の効率化を求める意識がもっとも高いのは、充実を求める意識も高い50〜59歳となっている。「高齢者医療や介護」についても、充実を求める女性層の方が、効率化を求める点でも高い意向を示している。
  この点を考えたとき、「無駄な部分はきちんと効率化して、その分、本当に必要な支援を拡充してほしい」というのが、国民の意識の根底にあるようだ。つまり、それだけ社会保障財政が厳しい状況にあることを、国民は一定程度理解していることになる。
  もう一つ注目したいのは、何かと槍玉に挙げられる「生活保護」に対する意識である。拡充・効率化を求める声はいずれも低いのだが、他の分野と比較して「拡充」よりも「効率化」を求める声の方が高いという逆転現象が起きている。最後のセーフティネットに対するシビアな視点も、国民の間に根強いことを伺わせる。
  冒頭で述べたように、この調査はあくまで大きな改革が施行される前の回答だ。現段階で国民の意識がどう変わっているのか。今後も継続的な調査が求められるだろう。
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<目次>
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第2章 まず、最も利用者の多い訪問・通所介護を掘り下げよう
第3章 特養ホーム等、施設の基本報酬ダウンと中重度者対応への重点施策
第4章 在宅系サービスでは、“重点化”はどう反映されたのか
第5章 国の最重要施策“認知症”対策と介護保険との関係はどうなるのか?
第6章 手厚く加算されたリハビリ・マネジメントの強化で仕事はどう変わるのか
第7章 介護職員の処遇改善はどのように進んだのか
第8章 総合事業による介護保険の「スリム化」そして“重点化”にどう対応したらいいのか
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2015.09.10
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