>  今週のトピックス >  No.3084
個人年金の受取りで介護保険の自己負担割合が2割に!?
● 公的介護保険を取り巻く環境
  公的介護保険は、平成12年度にスタートしましたが、その後、日本の少子高齢化は一層進展し、公的介護保険を取り巻く環境は厳しさを増しています。
  公的介護保険の第1号被保険者(65歳以上)の保険料は、制度開始当初の2,911円(平成12年度)から5,514円(平成27年度)へと倍増に迫る勢いで増えており、公的介護保険の財政状況がタイトになっていることがうかがえます。
  このような背景から、公的介護保険の自己負担割合は制度開始以来1割(残りの9割は公的介護保険から給付)に据え置かれていましたが、ついに平成27年8月から、「一定以上所得者」については2割負担となりました。
● 「一定以上所得者」とはどういう方か?
  ここでいう「一定以上所得者」とは、本人の前年の合計所得金額が160万円以上で、かつ同世帯の65歳以上の方の年金収入とその他の所得の合計額が、以下の2点のどちらかに該当する場合を指します。
@同世帯に65歳以上の方が1人の場合は、280万円以上
A同世帯に65歳以上の方が2人以上の場合は、346万円以上
  ここでいう「合計所得金額」とは、以下の金額等を合計したものを指します。
ア.公的年金等の場合、年金収入から公的年金等控除を控除した金額
イ.給与所得の場合、給与収入から給与所得控除を控除した金額
ウ.その他所得の場合、その他収入から必要経費を控除した金額
  公的年金等しか収入がない場合、「公的年金等収入(公的老齢年金のほか、企業年金も含む)−公的年金等控除(最低額120万円)」が160万円以上であることを指します。
  これは、公的年金等の収入に換算すると、年額280万円以上になります。これは、被保険者の上位20%に該当する金額であるとされています(厚生労働省資料)。
  つまり、ざっくりと言うと、公的年金等収入が年額280万円以上あると、公的介護保険が2割負担なんだなということです。
  また、同一世帯に配偶者等の65歳以上の方がさらにいる場合は、公的年金等収入が年額346万円以上になります。この346万円とは、「280万円+66万円(国民年金の平均受給額)」であるとされています(厚生労働省資料)。
● 個人年金の受取りがあると2割負担になるケースも!?
  公的年金等の受給を開始している方の場合、個人年金保険などの私的年金の受取りもしている方がたくさんいます。
  個人年金保険の場合、合計所得金額に算入される所得は、上記ウのとおり、「個人年金収入−必要経費(その年金額にかかる保険料相当額)」です(相続等にかかる年金ではないものとします)。
  通常、こういった所得は、所得税の確定申告の対象となるでしょうから、上記の合計所得金額は、公的介護保険の保険者たる市区町村が把握し、一定以上所得者であるか否かが、判定されることとなります。
  したがって、公的年金等収入のほかに、個人年金保険の収入のある方は、場合によっては、個人年金保険の受取りがあることによって、公的介護保険の自己負担割合が2割になる可能性があるのです。
  なお、公的介護保険の要介護認定を受けられた方には、負担割合(1割または2割)が記載された「介護保険負担割合証」が発行されますので、そこで確認ができます。
● 個人年金保険の加入者へ情報提供を
  該当されたお客さまは、びっくりされる方もいらっしゃるかもしれません。残念ながら、ほんの少し前であっても、このような2割負担の時代が来るとは想像できなかったわけですし、個人年金保険の加入者にはどうすることもできません。
  もし、どうしてもと言うのなら、個人年金保険の一括受取り等の検討も必要でしょう。
  ただ、これに関しても、当年度の所得の発生は避けられませんし、また情勢的に、公的介護保険全般の負担の増加は避けられないでしょうから、個人年金保険等によるキャッシュ・フロー(つまり、現金)があるのは、むしろ、有難いことなのかもしれませんね。
  いずれにせよ、対象となる方には、驚きを持って受け留められる事態でしょう。的確な説明が求められると思います。
  
木下 直人(きのした・なおひと)
社会保険労務士、CFP、1級DCプランナー、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、保険コンプライアンス・オフィサー2級
  東京大学農学部卒。保険業界勤務。保険税務や社会保険・ライフプランなどの資材作成・研修講義はわかりやすく、面白いとの定評がある。
  
2015.09.14
前のページにもどる
ページトップへ