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患者が病院に求めるもの〜平成26年受療行動調査より
● 次期診療報酬改定の方向性
  厚生労働省の社会保障審議会において、平成28年度に予定されている診療報酬改定の議論が本格化しつつある。さまざまな論点が上がる中で、患者にとって気になるのは、医療費の効率化・適正化を図るうえでの「退院支援等の取り組みによる早期退院の推進」だ。
  すでに平成26年度の改定では、この方針を進めるうえでの入口となる枠組みがいくつか設けられた。中でも亜急性期病棟を廃止し、在宅復帰率等の要件ハードルを引き上げた「地域包括ケア病棟」を創設した点が注目される。実際、報酬改定後から現状に至るまで、同病棟の入院料(入院医療管理料含む)の届出病院施設数・病床数は着実に増えつつある。
  次期改定で、この「早期の退院、在宅復帰」への流れがさらに強化されるのは確実だろう。そうなったとき、最終的に課題となるのは、当の患者自身(あるいはその家族)が、在宅復帰をスムーズに受け入れる環境にあるのかどうかという点だ。そのあたりの当事者意識を知るうえで、貴重なデータが公開された。それが、厚労省より公表された「平成26年受療行動調査」の結果である。
● 求められる生活支援
  この調査は、外来・入院の患者(もしくはその家族)を対象にさまざまな意識を調査したものだが、その中に入院患者に絞った調査項目がある。質問内容は「退院の許可が出た場合の自宅療養の見通し」を尋ねたものだ。それによれば、「自宅で療養できる」という回答は55.3%、逆に「自宅で療養できない」という回答は24.3%となっている(他は、「わからない」や無回答など)。
  院内での調査であることから、回答者に心理的なバイアスがかかっている可能性があるので、鵜呑みにはしづらい数字かもしれない。また、病院種類別で数字に少なからぬ開きもある(たとえば、「自宅で療養できる」という回答では、特定機能病院で74.1%と高率だが、療養病床を有する病院になると40.9%に低下する。これは、後者の患者が比較的高齢になる可能性が高いために退院後も重い療養を必要とするといった状況が考えられる)。
  そうした点を考慮したうえで、「自宅で療養できない」と回答する背景要因に注目してみたい。それは、「療養できない」と回答した人に対し、それでは「自宅療養を可能にする条件とは何か」(複数回答可)を尋ねた項目だ。回答項目には、「医師、看護師などの定期的な訪問」や「療養のための指導(服薬・リハビリ指導など)」、「緊急時の病院や診療所への連絡体制」などが見られる。いずれも、在宅復帰を進めるうえでは欠かせないポイントと言えそうだが、実は、これらを抑えて上位にランクされているのは別の項目となっている。
  もっとも回答が多いのは、「入浴や食事などの介護が受けられるサービス」(40.6%)、次いで「家族の協力」(35.4%)だ。いずれも、直接的に病院が提供する機能とは一線を画している。どちらかといえば、介護サービスのように生活支援にかかわる部分や家族側の自助にかかわる要素(つまり、家族をいかにエンパワメントするか)が重要と言えそうだ。その意味では、退院後の生活支援・家族支援までを視野に入れた、病院側の相談機能の充実がポイントになるといえる。このあたりの機能を充実させるために何が必要かが、今後は議論の俎上に載せられる可能性もある。
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第2章 まず、最も利用者の多い訪問・通所介護を掘り下げよう
第3章 特養ホーム等、施設の基本報酬ダウンと中重度者対応への重点施策
第4章 在宅系サービスでは、“重点化”はどう反映されたのか
第5章 国の最重要施策“認知症”対策と介護保険との関係はどうなるのか?
第6章 手厚く加算されたリハビリ・マネジメントの強化で仕事はどう変わるのか
第7章 介護職員の処遇改善はどのように進んだのか
第8章 総合事業による介護保険の「スリム化」そして“重点化”にどう対応したらいいのか
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2015.10.01
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