>  今週のトピックス >  No.3096
大手有料老人ホームにおける虐待等事件
● 人手不足の現状で「住まいとケアの一体化」は進むのか?
  全国で300ヶ所以上の有料ホームやサービス付き高齢者向け住宅を展開するメッセージ・グループ(施設名は「アミーユ」)で、その子会社が運営するホームにおいて入居者が立て続けに転落死する事件が発生した。こちらは現在警察の捜査が行われているが、別のホームでも職員による入居者への虐待が明らかになり、新規受入れの停止という行政処分が下されている。各事件の内容自体もショッキングながら、医療的ケアの必要な入居者を積極的に受け入れたり、平成18年から入居一時金ゼロを打ち出すなど斬新な取り組みを行ってきた同グループで発生したことが、社会的に大きな衝撃を与えている。重度かつ資産に乏しい高齢者が増え、特養ホームなどへの入所も困難になっている状況下では、「住まいとケアの一体化」を進める社会資源としての期待がそれだけ大きいからに他ならない。
  国としても社会的影響度の大きさを考慮したのか、9月29日、厚労省が同本社に対して介護保険法に基づく特別検査に入った。同社のHPによれば、検査の結果として@本社による各施設への支援体制が不十分であったこと、A各施設の事故等の情報が他の施設に共有されていなかったこと、B本社としてのリスクマネジメント体制が不十分であったことなどが指摘されたという。ちなみに、同グループでは、すでに外部の専門家による第三者委員会を内部に立ち上げている(調査結果は11月末に公表される予定)。
  アミーユの広報を見ると、現場のスタッフ教育にもそれなりの力を入れていることがわかる。たとえば、研修に際しては独自のテキストを用い、新規入職者への導入研修のほか、役職昇格時の研修、毎月スタッフ500人を集めての事例研修、全国発表会など多様な教育の場を設けている。それでもなお、今回のような事件が起こったという点については、やはり厚労省の検査でも明らかになった構造的なリスクマネジメント体制の不備が指摘されるといえる。気になるのは、そこに現場の人手不足という問題も見え隠れすることだ。
● 「介護離職ゼロ」を達成するために
  介護労働安定センターの調査によれば、介護現場の人手不足感は年々高まっており、直近の調査(平成26年度)でも「人手不足」とする回答は前年比で3ポイント近く増加している。すでに人手不足が原因と思われる介護事業の倒産も、今年に入って過去最悪のペースとなっており、水面下での現場の疲弊が極限に達している感がある。利用者の重度化や重い認知症者の増える中、恒常的な人手不足が続くとなれば、キャリアの浅い従事者がいきなり負担の大きい現場に配置されるケースも増えるだろう。厚労省の調査では、介護施設などの従事者による虐待事例も増加傾向にあり、その要因を見ると「教育・知識・介護技術等に関する問題」や「職員のストレスや感情コントロールの問題」の比率が大きい。
  奇しくも、安倍首相が党内での記者会見で「アベノミクス第2ステージ」のビジョンを語っており、その柱の一つとして「介護離職(家族等の介護を理由とした離職)ゼロ」を目標として掲げた。その方策として、介護施設の増設や介護人材の確保をうたっている。しかしながら、冒頭のような事件が発生すれば、介護に対する社会不安は今後もますます増大する恐れがある。介護現場で何が起きているのかについて、国をあげて詳細な実態調査を行うことが急務だろう。
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<目次>
第1章 今回の介護保険制度改正の狙いは何か
第2章 まず、最も利用者の多い訪問・通所介護を掘り下げよう
第3章 特養ホーム等、施設の基本報酬ダウンと中重度者対応への重点施策
第4章 在宅系サービスでは、“重点化”はどう反映されたのか
第5章 国の最重要施策“認知症”対策と介護保険との関係はどうなるのか?
第6章 手厚く加算されたリハビリ・マネジメントの強化で仕事はどう変わるのか
第7章 介護職員の処遇改善はどのように進んだのか
第8章 総合事業による介護保険の「スリム化」そして“重点化”にどう対応したらいいのか
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2015.10.15
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