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次期診療報酬改定に向けた病床再編のゆくえ
● 改定の影響を受け、7対1病棟は重症度の高い患者へシフト
  平成28年度の診療報酬改定に向け、中医協をはじめ厚労省内での議論も活発になってきた。特に患者のすそ野が広い一般病棟のあり方は、今後も大きな論点となるだろう。ちなみに、前回平成26年度の診療報酬改定の影響を調査・評価したデータが「調査・評価分科会」で取りまとめられており、さらなる病床再編に向けた叩き台になると思われる。
  一般病棟の入院基本料については、周知のとおり、看護師配置の手厚い病棟として7対1、10対1が設けられている。このうちの7対1については、前改定において入院基本料等の算定に際して、「患者の重症度」や「退院患者の行き先として自宅や介護施設、在宅復帰機能をもつ病棟を重視」するという要件がプラスされた。調査・評価データによれば、すでにこうした改定による影響が見られる。
  具体的には、改定直前の平成26年3月から約1年後の平成27年4月の間で、7対1の病床数は1万6,500床減少している。また、同じ1年間で7対1入院基本料を届け出ていた施設のうち、29%が病床転換を行なっているという結果も出ている。このうち「10対1へと転換した施設」の転換理由を見ると、「重症度等の基準を満たさない」が圧倒的に多く、同時に「看護師の確保が困難なため」という理由も多い。後者は、重症度の高い患者を受け入れることも影響していると思われる。
  一方で、「一部の病床は転換したものの、引き続き7対1を算定している」という施設では、「他の入院料と組み合わせることで、より患者の状態に即した医療を提供できる」や「より地域のニーズに合った医療を提供できる」という回答が多い。先の「10対1への転換」を行なった施設と比べると前向きな対応をとっている感はあるが、具体的な転換先としては、10対1以外となると在宅復帰を強化した地域包括ケア病棟が目立っている。
  いずれにしても、7対1病棟については重症度の高い患者に重点化されるインセンティブが確実に働きつつある。これと連動するように、一般病床の平均在院日数は平成25年度以降、急速に低下してきた。患者の早期の在宅・地域復帰を図りたい国としては思惑通りの流れになっていると言え、この流れは次期改定でも当然加速されることになるだろう。
● 退院後に介護が必要な高齢者の“受け皿”整備が課題
  ちなみに、在院日数が90日超という患者の状況を見ると、90日以下に比べて「介護の必要性が高い」(そして、「介護する人がいない」という比率も高い)というデータもある。明らかに、長期入院ニーズが高齢者に偏り、しかも在宅での介護力も足らないという問題を抱えているわけだ。となれば、7対1を再編するとともに、その受け皿をどうやって拡大していくかが引き続き大きな課題となる。
  こうした状況もあり、厚労省内では「慢性期医療のあり方」をにらんだ「療養病床のあり方に関する検討会」も開催されている。その議論の中では、「医療機関に併設した集合住宅(サ高住など)を制度化する」という意見も出ていて、医療が患者の生活領域に大きく踏み込んでいく改革も想定される。だが、こうした新カテゴリーが際限なく拡大すれば、財政健全化との整合性がとりにくくなる。
  結局、一般病床の再編が進んでも、その受け皿整備が追いつかなければ、わが国の医療の将来像は描ききれない。上流から下流まで全体のバランスをいかに確保していくかが、ますます大きな議論になっていきそうだ。
厚生労働省HP「(平成27年度第10回)入院医療等の調査・評価分科会【別添】資料編」
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<目次>
第1章 今回の介護保険制度改正の狙いは何か
第2章 まず、最も利用者の多い訪問・通所介護を掘り下げよう
第3章 特養ホーム等、施設の基本報酬ダウンと中重度者対応への重点施策
第4章 在宅系サービスでは、“重点化”はどう反映されたのか
第5章 国の最重要施策“認知症”対策と介護保険との関係はどうなるのか?
第6章 手厚く加算されたリハビリ・マネジメントの強化で仕事はどう変わるのか
第7章 介護職員の処遇改善はどのように進んだのか
第8章 総合事業による介護保険の「スリム化」そして“重点化”にどう対応したらいいのか
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2015.10.26
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