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有給休暇取得率47.6%、政府目標に遠く及ばず
● 有休の取得日数、取得率ともに前年より後退
  「平成27年就労条件総合調査結果の概況」が10月15日に厚生労働省より公表された。
  この中で特筆すべき調査項目としては、「労働者が休みをどの程度、取れているか」を窺い知ることができる「年次有給休暇(以下、「有休」という)の取得状況」であろう。というのも、欧米諸国に比べ日本の取得率は並外れて低いことが問題視されており、休みを取れないことが「長時間労働」を招き、うつ病などの精神疾患や過労死、過労自殺に至る労働者が後を絶たない原因だと考えられているからだ。そのため政府は、東京オリンピックのある2020年までに取得率を70%にすることを目標としている。
  また、取得率が上がれば、休みが増えた分、レジャー等の消費に回る経済効果も見込まれ、余暇活動の増加による雇用創出も期待できる。これらのことから、安倍総理も当然ながら注目している数字であるはずだ。
  ところが、今回、労働者1人あたりの有休取得日数は8.8日、有休取得率は47.6%と50%にも届かず、昨年の調査結果よりも後退していることが判明した。
  有休取得状況を企業規模別にみると、規模が小さくなるほど取得しにくい状況が浮き彫りになっている。
企業規模別労働者1人平均有休の取得状況
企業規模 労働者1人平均取得日数 取得率
1,000人以上 10.1日 52.2%
300〜999人 8.7日 47.1%
100〜299人 8.0日 44.9%
30〜99人 7.6日 43.2%
  一方、産業別にみると、「宿泊業・飲食サービス業」が最も低く(5.4日、32.2%)、「電気・ガス・熱供給・水道業」が最も高く(13.6日、69.8%)、業界によって格差がみられる。
  また、性別によっても違いがあり、女性の方が有休を取りやすく、男性とは10%近くの開きがある。
性別 労働者1人平均取得日数 取得率
男性 8.4日 44.7%
女性 9.3日 53.3%
  したがって、企業規模別、産業別、性別によるそれぞれの格差の是正も検討課題と言えよう。ただし、個々の企業や職場によって調査結果とかなりの違いが生じていることは言うまでもない。皆さんの職場ではどうなのか、考えてみてほしい。
● 取得率後退の要因と今後の課題
  有休取得率が前年より下がった要因について、厚生労働省は「景気が良くなり、休暇が取りにくかったのではないか」と分析している。また、調査結果の別項目である「主な週休制の形態別企業割合」の実施状況をみると、完全週休2日制を採用している企業、完全週休2日制より休日日数が実質的に多い制度を採用している企業ともに昨年よりも割合が上がっていることから、制度の変更により休みが増えた人にとっては、その分、有休を取得する必要性が薄まり、相対的に有休取得の日数が少なくなったと言えるかもしれない。
  今回の調査の数値結果から、今後は「年5日の有休義務化」の議論がより強まりそうである。いずれにせよ、企業が労働者を休ませる仕組み作りに真剣に向き合うことが必要であり、労働者のワーク・ライフ・バランスの推進を図るとともに、国や企業の取り組みが今後の課題といえよう。
年10日以上の有休を与えられる労働者に、毎年時季を指定して年5日の有休を取らせることを企業の義務とする制度。年5日ですら休みの権利を行使できない労働者に対して、5日は必ず有休を取らせるよう企業に義務を課するものであり、労働基準法の改正が必要となる。
参照  : 厚生労働省HP「平成27年就労条件総合調査結果の概況」
  
右田 修三 (みぎた・しゅうぞう)
一般社団法人ソーシャルバリューファーム 代表理事
千葉県出身。大手生命保険会社で、人事・教育関連部門、営業所長、査定部門の業務に従事した後、資格予備校勤務を経て独立。現在は、主に、学生の就活支援や失業者の再就職支援等を中心にキャリア啓発のための講義や、職業選択・職業能力開発に関するアドバイス等を行っている。
  
2015.10.29
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