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アベノミクス「介護離職ゼロ」への道筋
● 直近の介護離職者は10万人超
  アベノミクス第2ステージで示された「3本の矢」で、注目を集めているのが「介護離職者数をゼロに」という目標だ。直近の就業構造基本調査では、平成23年10月から平成24年9月までの1年間で「介護を機に離職・転職した人」の数は10万1000人におよんでいる。平成19年10月以降の年度調査では年間10万人を下回っていたが、再び大台に乗ったことで、成長戦略を掲げる首相官邸としても無視できない事態と見たのであろう。
  その具体的な方策として、「一億総活躍国民会議」で示された資料では、@在宅・施設における介護サービス基盤の整備推進、A介護人材確保の総合的・計画的推進が掲げられている。さらに、それらを下支えする施策としてB介護休業等を取りやすい環境づくり、C介護サービス等へつなげる相談窓口の充実・情報提供体制、D地域全体で高齢者を見守る社会づくり等の推進がプラスされている。
● 一億総活躍国民会議は機能するのか?
  これらを具体的に掘り下げるのは、一億総活躍国民会議の議論を経てということになるが、問題はどのようなスキームを構築するのかという点だろう。@については、第6期(平成27〜29年度)介護保険事業計画の推進と平成27年度改正で設けられた地域医療介護総合確保基金(以下、総合確保基金)の活用により、主に高齢者人口の伸びが著しい都市部のサービス整備の加速化をうたっている。Aについては、やはり総合確保基金を活用しながら、介護人材確保のための参入促進、処遇改善、資質向上などが掲げられている。
  注意したいのは、介護サービス事業の安定的な運営を図るうえで論点となるはずの「介護報酬の引き上げ」がふれられていないことだ。仮に総合確保基金の上積みや使途の拡大で施設を作り、処遇改善の交付金などを復活させたとして、介護報酬の拡充によって事業の継続性が保障されなければ、事業者も人材も参入意欲を高めるという点では限界が出てくる。しかし、介護保険財政の効率化をめざす財務省が簡単に首を縦にふるとは考えにくい。むしろ財務省は「要介護2程度以下の生活援助(家事援助)や福祉用具、住宅改修について、原則自己負担(一部補助)とする」という方針を打ち出している。そうなれば、「家族のかかわり」はむしろ増える可能性があり、介護離職ゼロとの整合性は難しくなる。
  また、Bについては、厚労省は、平成26年11月から「介護休業のあり方や介護期の柔軟な働き方」についての議論を進めてきた。その報告書では「介護休業の分割取得」などが提案されているが、介護休業の取得者がわずか3.2%(非正規雇用に限れば2.2%)にとどまるという状況で、この数字を大きく転換させるには、介護休業取得者の大幅な所得保障にまで踏み込むなどの対応も必要になる。
  Cについても、既存の行政窓口や地域包括支援センター(以下、包括)の拡充だけでは足りない。たとえば、大企業でのケアマネジャー配置や、中小企業であるならオフィス立地に包括の出先機関設置を義務づけるといった「仕事をする相談者との距離感」を思い切って縮める施策などが求められるだろう。いずれにしても、介護離職10万人をゼロにするには、社会構造そのものを変えるくらいの覚悟がなければ達成は難しい。現政権に本当にその覚悟があるのかどうか。選挙目当てのパフォーマンスに終わらないことを祈りたい。
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<目次>
第1章 今回の介護保険制度改正の狙いは何か
第2章 まず、最も利用者の多い訪問・通所介護を掘り下げよう
第3章 特養ホーム等、施設の基本報酬ダウンと中重度者対応への重点施策
第4章 在宅系サービスでは、“重点化”はどう反映されたのか
第5章 国の最重要施策“認知症”対策と介護保険との関係はどうなるのか?
第6章 手厚く加算されたリハビリ・マネジメントの強化で仕事はどう変わるのか
第7章 介護職員の処遇改善はどのように進んだのか
第8章 総合事業による介護保険の「スリム化」そして“重点化”にどう対応したらいいのか
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2015.11.12
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