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全体の1割弱の実地調査で申告漏れ所得の6割を把握
● 前事務年度比5.4%増の8,659億円の申告漏れ把握
  国税庁によると、個人に対する今年6月までの1年間(平成26事務年度)の所得税調査は、前事務年度に比べ17.7%減の74万件行われた。そのうち、約63%に当たる46万6,000件から同5.4%増の8,659億円の申告漏れ所得を見つけた。その追徴税額は同1.2%減の1,008億円。1件平均117万円の申告漏れに対し14万円を追徴した。
  実地調査における特別調査・一般調査(高額・悪質な不正計算が見込まれるものを対象に行う深度ある調査)は、前事務年度に比べ6.5%増の4万9,000件を実施、うち約86%にあたる4万2,000件から同16.7%増の総額4,319億円の申告漏れ所得を見つけ、同4.7%増の696億円を追徴。件数では全体の6.6%に過ぎないが、申告漏れ所得金額全体の50.0%を占めた。調査1件あたりの申告漏れは877万円と、全体の平均117万円を大きく上回る。
  また、実地調査に含まれる着眼調査(資料情報や事業実態の解明を通じて行う短期間の調査)は、前事務年度比16.0%増の1万8,000件行われ、うち1万4,000件から同58.0%増の689億円の申告漏れを見つけ、46億円を追徴。1件あたり平均申告漏れは373万円。一方、簡易な接触は、同19.7%減の67万2,000件行われ、うち41万件から同10.5%減の3,651億円の申告漏れを見つけ265億円を追徴。1件あたりの平均申告漏れは54万円だった。
● 効率的・効果的な所得税調査を実施
  実地調査トータルでは、前事務年度比10.0%増の6万8,000件の調査を行い、うち5万6,000件から同21.1%増の5,008億円の申告漏れを見つけ、742億円を追徴。つまり、実地調査件数は全体の9.2%と1割弱に過ぎないが、申告漏れ所得全体の約6割(57.8%)を把握しており、高額・悪質な事案を優先して深度ある調査を的確に実施する一方、短期間で申告漏れ所得等の把握を行う効率的・効果的な所得税調査が実施されていることが裏付けられた。
  このように、近年の所得税調査の特徴は、高額・悪質と見込まれるものを優先して深度ある調査(特別調査・一般調査)を重点的・集中的に行い、一方で実地調査までには至らないものは電話や来署依頼による“簡易な接触”で済ます調査方針にある。
  なお、業種別1件あたりの申告漏れ所得高額業種は、前年2位の「キャバレー」(2,093万円)がトップ、同1位の「風俗業」(1,979万円)、同3位の「バー」(1,159万円)までがワースト3。
● 消費税調査では232億円の税額を追徴
  一方、個人事業者に対する消費税の調査は、原則として所得税の調査等と同時に実施されるが、国税当局は、消費税のみ無申告とする納税者に対しては着眼調査や簡易な接触により適正な課税に努めている。
  国税庁が平成26事務年度に実施した消費税調査では、追徴税額は全体で232億円にのぼった。調査等の件数は、特別調査・一般調査は2万8,000件、着眼調査は8,000件、簡易な接触は5万件だった。また、これらの調査等の合計件数は8万6,000件であり、そのうち申告漏れ等の非違があった件数は約7割の5万9,000件となっている。
  実地調査による追徴税額は、実地調査全体で186億円であり、このうち特別調査・一般調査によるものが168億円、着眼調査によるものが18億円となっている。また、簡易な接触によるものが47億円となっており、調査等合計では、232億円の追徴税額だった。
  この結果、実地調査件数は全体の調査件数の約4割だが、追徴税額全体の約8割を占めていることになる。
  1件あたりの追徴税額をみると、特別調査・一般調査が59万円、着眼調査が24万円で、実地調査合計では52万円、また簡易な接触が9万円となっており、調査等全体では1件当たり平均27万円の追徴税額だった。
参考  : 国税庁「平成26事務年度における所得税及び消費税調査等の状況について」
  
浅野 宗玄(あさの・むねはる)
株式会社タックス・コム代表取締役
税金ジャーナリスト
1948年生まれ。税務・経営関連専門誌の編集を経て、2000年に株式会社タックス・コムを設立。同社代表、ジャーナリストとしても週刊誌等に執筆。著書に『住基ネットとプライバシー問題』(中央経済社)など。
http://www.taxcom.co.jp/
○タックス・コム企画・編集の新刊書籍『生命保険法人契約を考える』
http://www.taxcom.co.jp/seimeihoujin/index.html
  
2015.11.16
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