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介護離職ゼロに向けた具体策が明らかに
  今週のトピックスNo.3112で一報をお伝えした、アベノミクス第2ステージの柱の一つである「介護離職ゼロ」の目標だが、その具体策が一億総活躍社会国民会議の第2回会合内(11月12日開催)で提示された。現段階ではあくまで「厚労省の考え方」であるため、今後の国民会議の議論では軌道修正される可能性もあるが、大きな指針となることは間違いない。
  大きな方向性としては、以下の4つに分けられる。
@在宅・施設サービスの整備の充実・加速化、
A介護サービスを支える介護人材の確保、
B介護サービスを活用するための家族の柔軟な働き方の確保、
C働く家族等に対する相談・支援の充実
である。
● 厚労省が示す具体的な目標数値と対策
  特に具体的な数字が上がっているのが@で、これについては、特養ホーム、老人保健施設、ケアハウスのほか、認知症グループホームや小規模多機能型居宅介護(看護型も含む)を対象に整備目標を引き上げた。当初の計画では2020年までにプラス約34万人分としていたが、これを「2020年代初頭までに約40万人」とプラス約6万人分の上乗せを目標としている。
  具体的にどうやって目標を引き上げるのか。厚労省が示しているのは、「用地確保が困難な地域における施設整備への支援の拡充」だ。具体的には、「定期借地権にかかる一時金の支援拡充」、「既存施設等への合築推進(その際の設備の共用等に関する規制緩和)」、「首都圏で203万戸に達する空家の活用」というもの。さらに、特に施設不足が深刻化する都市部においては、特養の建物所有要件の緩和も示された。現行では、事業の安定性を確保するために、母体となる社会福祉法人が「建物を所有している」場合のみ特養運営が認められている。これを「建物を賃貸した場合でもOK」というしくみに改めるわけだ。
  なお、東京都などは、すでに「都有地の貸付け」による特養ホームの整備・運営にかかる公募をスタートさせている。こうした動きに連動させながら、国としても国有地の貸付けという施策に乗り出す可能性もある。
  ただし、ハードだけをいくら整備しても、そこで働く介護人材の確保が進まなければ意味はない。その点では、Aの方向性がキーポイントとなる。ここでの具体策としては、離職した職員等の再就職支援のための「再就職準備金の貸付け」や、介護職をめざす学生を増やすための「修学資金貸付け」が示されている。一方で介護職員の離職防止対策としては、見守り支援ロボットの導入支援や業務上の書類削減による文書量の半減による「職員の負担軽減に資する生産性向上」を掲げた。
  さらにBに関しては、すでに省内での検討が進んでいる「介護休業の分割取得」を可能にするなどの介護休業制度の見直しが軸となる。加えて、介護休業取得時の雇用保険からの給付率引き上げに向けた取り組み、仕事と介護が両立しやすい職場環境に向けた「企業の支援モデルの普及・展開、企業の導入支援」なども提案対象となっている。
  このようにさまざまな施策提案はなされているが、どうしても財政出動が限られる中で、たとえばAにおける「介護報酬の引き上げ」という抜本対策が取りにくい状況が浮かぶ。そのため、規制緩和や企業努力などに頼らざるを得ないという厳しさが垣間見えてしまう。今後の国民会議で、首相自らが何らかのリーダーシップを発揮するのかどうか。来年度の予算編成の動きとも絡めて注目したい。
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介護施設の報酬減が迫る中、現場の処遇はどう改善すべきか。燃え尽きないために現場が考えなければならないことなど、働き方も解説。
<目次>
第1章 今回の介護保険制度改正の狙いは何か
第2章 まず、最も利用者の多い訪問・通所介護を掘り下げよう
第3章 特養ホーム等、施設の基本報酬ダウンと中重度者対応への重点施策
第4章 在宅系サービスでは、“重点化”はどう反映されたのか
第5章 国の最重要施策“認知症”対策と介護保険との関係はどうなるのか?
第6章 手厚く加算されたリハビリ・マネジメントの強化で仕事はどう変わるのか
第7章 介護職員の処遇改善はどのように進んだのか
第8章 総合事業による介護保険の「スリム化」そして“重点化”にどう対応したらいいのか
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2015.11.26
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