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介護ロボット普及に向けた新施策
● 介護ロボット等導入支援特別事業に52億円
  平成27年度補正予算案において、厚労省の介護分野施策として注目される項目の一つに「介護ロボットの導入・促進支援」がある。具体的に誰を対象に、どのような支援策が盛り込まれているか見てみよう。
  対象で分けた場合、大きく2つがあげられる。一つは、慢性的な人手不足にあえぐ介護施設・事業者に向け、現場従事者の負担軽減のために介護ロボットの導入を図るケースへの支援策。もう一つは、高齢者とかかわる家族を対象に、「高齢者の見守りを支援する介護ロボット等」にかかる支援策だ。
  前者については、すでに平成27年度から設けられている地域医療介護総合確保基金(以下、総合確保基金)を使っての導入支援策が実施されている。これについては、1機器あたり補助額は10万円(価格が20万円未満のものについては、その2分の1を上限とする)、1回当たりの導入台数は各施設・事業所の利用定員数によって限度が定められる。今回の補正予算案では、総合確保基金の積み増しが示されており、厚労省としては同補助の積極活用をうながす位置づけになる。
  ただし、介護ロボットの中には、1台当たりの単価が20万円ではおさまらない高額なものも多い。そこで、今回の補正予算案では、先の総合確保基金による事業とは別に、介護ロボット等導入支援特別事業を企画し、52億円を計上した。こちらは1施設・事業所につき上限300万円(補助率100%)を設定している。先の総合確保基金分と合わせて、介護ロボット導入を加速しようというものだ。
● 「導入計画の策定」というハードルをクリアできるか
  ただし、両者の補助を受けるうえでは、一つの要件が設けられている。それが「介護従事者負担軽減のための介護ロボット導入計画の策定」だ。これは3年をめどとして、介護従事者負担軽減のための目標と期待される効果、そこから導入すべき機器(要介護者の移乗・移動・排泄を支援するもの、見守り、入浴介助で利用するもの)を導き出すという流れを計画書にまとめるというものだ。加えて、実際の活用モデルを示すことで、他の介護施設・事業者の参考となるべき内容であることが求められる。導入計画を採択するか否かの判断は、総合確保基金分は都道府県、特別事業は国が行うことになる。
  一方、後者の家族介護者向けの事業だが、こちらは1機器につき補助額10万円(補助率100%)を上限としている。ただし、家族介護者向けに機器の購入費用を直接補助するというのではない。あくまで交付を受けるのは市町村で、それによって機器を揃えたうえで市町村から家族介護者にレンタルを行うという流れになる。この場合も交付決定に際しては導入計画の策定が必要だが、これは市町村が手がけることになっている。
  いずれにしても、ネックとなりそうなのは、導入計画の策定だ。規模の小さい事業者や市町村の場合、平成27年度の制度改正でさまざまな事務負担が増える中、導入計画の策定にまで手が回るのかどうかが懸念される。従事者確保のニーズは小さな施設・施設事業者の方が高く、人口の過疎化などで地域の高齢者の見守りニーズは小さな市町村ほど大きい傾向がある。つまり、こうしたニーズに応えるために事務負担の軽減などをどう図っていくかという点が、政府の事業運営に際して大きなポイントになりそうだ。国会の予算案審議でも、このあたりに注目してみたい。
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<目次>
第1章 今回の介護保険制度改正の狙いは何か
第2章 まず、最も利用者の多い訪問・通所介護を掘り下げよう
第3章 特養ホーム等、施設の基本報酬ダウンと中重度者対応への重点施策
第4章 在宅系サービスでは、“重点化”はどう反映されたのか
第5章 国の最重要施策“認知症”対策と介護保険との関係はどうなるのか?
第6章 手厚く加算されたリハビリ・マネジメントの強化で仕事はどう変わるのか
第7章 介護職員の処遇改善はどのように進んだのか
第8章 総合事業による介護保険の「スリム化」そして“重点化”にどう対応したらいいのか
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2016.01.14
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