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人口減少抑制対策「希望出生率1.8」は実現する?!
● 提唱される「希望出生率」とは
  昨年、安倍首相から発表された政策「新3本の矢」の中に、突如「希望出生率1.8」という言葉が出てきて話題になりましたが、人口減少を抑制し社会の活性化を図るための重要テーマとして新年度予算(案)や税制改正大綱にも配慮されているようです。
  希望出生率とは「結婚して子供を産みたいという人の希望が叶えられた場合の出生率」で、民間研究機関「日本創成会議」が平成26年5月に公表した「ストップ少子化・地方元気戦略」の1つとして提唱されたものと言われています。これを算式で表すと、{既婚者割合×夫婦の予定子供数+未婚者割合×未婚者結婚希望割合×理想子供数}×離別等効果=1.8 となり、首相はこの実現を政策目標に掲げたわけです。
● 毎年公表される「合計特殊出生率」
  そもそも出生率を示す指標には、厚生労働省の調査資料等で見る「合計特殊出生率」があります。これは「15〜49歳までの女性のある期間(1年間)の年齢別出生率を合計したもの」で、一人の女性がその年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子供の数に相当します。これは、出生数=女性人口(15〜49歳)×(期間)合計特殊出生率÷35 の算式で表され、「その年の出生率(平成26年は1.42)」として年次比較、国際比較、地域比較に用いられています。この出生率には、各年齢層の人口が異なることを加味して、年齢構成の違いで調整したものや、実際に「一人の女性が一生の間に生む子供の数」は、同一世代生まれ(コーホート)の女性の各年齢の出生率を過去から積み上げたものであるため、「その世代の出生率」として捉えて算出する出生率もあります。ただし、後者の場合はその世代が50歳に到達するまで結果が得られないという難点があります。
※年齢別に算出した出生率の合計数を15〜49歳までの35個の年齢別出生率の数で除している
● 2つの出生率の関係と目標達成の難しさ
  晩婚化・晩産化が進行する中で、現実には、各世代の結婚や出産の行動に違いがあり、仕事や家庭の事情で子供が産めなかった、あるいは第2子、第3子を諦めたという人もいるため、「希望出生率>出生率」という不等式が成り立ちます。更に、出生率が上がっても女性の人口が減少する現状にあっては出生数が増加しないことも明白です。
  上記の「ストップ少子化・地方元気戦略」では、出生率が目標を達成していけば総人口は9,500万人で安定化し、高齢化比率も低下する効果に言及しています。問題は、現在の少子化の背景として、日本社会の構造的な特質があることです。人口の大都市圏への一極集中に端を発し、子育て環境(住宅・保育所等)の不備、地方の高齢化と人口減少(いずれは大都市圏も)、そして社会保障の財政的な課題もあります。必要な経済成長との関わりの中で、「希望出生率」の実現には、これらの阻害要因を排除するだけでなく、新しい価値観や文化の醸成も必要となることが、目標達成の一層の難しさを感じさせます。
参考  : 日本創成会議 「ストップ少子化・地方元気戦略」(要約版) 平成26年5月公表分
厚生労働省 「平成26年 人口動態統計」 (参考)合計特殊出生率について
2016.01.21
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