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遺言執行者の選任 〜事務手続きをシンプルに〜
● 遺言執行者を指定しておくことのメリット
  相続が発生すると、何らかの方法で遺産分割をしなければならない。大きく分けると、@遺言により相続分が指定されていたり、遺贈が行われている場合はその内容に従っての分割、A相続人全員での協議が整った場合は、その協議の内容に従っての分割、B協議が整わない場合に、家庭裁判所での調停や審判による分割となる。また、分割の内容が決まった後、相続人が実際に財産を自分のものとするためには預金の名義変更や、不動産の相続についての登記など、それぞれの事務手続きが必要となる。
  銀行預金の名義変更を例にとってみると、銀行所定の名義変更に関する用紙を提出するとともに、被相続人の除籍謄本・戸籍謄本(出生から死亡まで連続したもの)、相続人全員の戸籍謄本、相続人全員の印鑑証明書が必要となる。また、遺産分割協議書や家庭裁判所の調停証書・審判書がある場合はこれも提出することになる。(注1)
※除籍謄本、戸籍謄本は全部事項証明書を含む。以下同じ。
  このように、相続に関する手続きは、相続人全員の協力が必要であるが、必ずしも円満に協力が得られるとは限らない。書類の取り付け(特に他の相続人の押印)に多大な労力を要し、余分な金と時間がかかることもある。
  このような問題を解決するために有効な手段となるのが遺言執行者の指定である。遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為を行い、また相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
  遺言執行者は遺言の内容を実現するため、自らの権限で預金の名義変更の請求をし、不動産の相続登記を行うことなどができる。相続人が、遺言の内容に不満を持っていたとしても、遺言執行者の職務を妨害することはできない。
  先ほどのように、銀行預金の名義変更を例にとると、遺言書、検認調書または検認済証明書、遺言執行者の選任審判書謄本があれば、あとは被相続人が死亡したことを証明する戸籍謄本があればよい。逆に言うと他の相続人の印鑑証明書などは不要ということになる。(注1・2)
● 遺言執行者の選任方法
  遺言執行者は、通常、遺言書の中で指定されるが、指定のない場合は家庭裁判所に選任を求める審判を申し立てることができる。また、遺言の執行を行う前に遺言執行者が死亡した場合なども、家庭裁判所によって新たな遺言執行者を選任してもらうことができる。
  遺言執行者には、相続人を指定しなければならないわけではない。弁護士や行政書士等の専門家を遺言執行者に指定することも可能である。このような場合、家庭裁判所が遺言執行者への報酬を定める。一部の弁護士事務所等では、遺言の作成から相続発生時の遺言執行者の引き受けまで含めてパッケージで料金を設定しているところも見かけられる。
  相続対策の一環として遺言書を作成する場合、遺言執行者の指定を併せて検討しておくと良いであろう。
(注1)  全国銀行協会のWebサイトを参考に筆者作成。
(注2)  通常は戸籍謄本等の提出が不要な場合でも、金融機関が必要であると判断した場合、追加の書類提出が必要となることがあるので注意が必要である。
2016.01.25
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