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老人福祉・介護事業の倒産、制度施行後最多
● 小規模事業所を中心に倒産件数増
  東京商工リサーチの調査で、2015年(1〜12月)の老人福祉・介護事業の倒産件数が76件となり、介護保険制度の施行(2000年)以降では最多となることが分かった。それまでの最多は前年、前々年のともに54件だったが、それを4割も上回ったことになる。
  一方で、負債総額は63億8,600万円で、こちらは対前年比で5.6%マイナスとなった。負債総額10億円以上の大型倒産もゼロで、明らかに小規模事業所を中心とした倒産が、全体の件数を押し上げていることがわかる。
  前年、前々年の倒産件数の増加は、景気上昇にともなって人材が他産業に流れることによる「人手不足倒産」の色合いが濃かった。今回の2015年調査の結果は、人手不足に加えて同年4月に介護報酬が9年ぶりにマイナス改定となったことが背景として指摘される。
  今回の改定では、特に小規模型通所介護(前年度1月あたりの平均利用延人数が300人以内)の基本報酬がマイナス10%近い引き下げとなったが、上記の負債総額との関係を見ても、そのまま倒産状況に現れているといえる。
  実際、倒産事業の詳細を見ると、通所・短期入所事業が約2倍増。また、訪問介護事業も約2割増となっている。ちなみに、厚労省の介護給付費実態調査によれば、介護保険の実受給者のうち、通所介護は4割、訪問介護は3割ともっとも利用率の大きいサービスである。この2大サービスが経営的に大きなダメージを被っていることは、介護サービス市場の構図にも少なからぬ影響が及ぶだろう。
  今回の報酬改定が小規模法人ほど厳しいことの背景にあるのは、小規模型通所介護のような「狙い撃ち」的な基本報酬の引き下げだけではない。基本報酬が引き下げられた代わりに、要介護度の重い人や重い認知症の人を積極的に受け入れれば加算によるカバーも可能という算定構造になっている。だが、そのためには一定の資格をもった人材の配置などの体制要件を満たすことが必要だ。資力に乏しい小規模法人としては、一定以上のキャリアがある人材を確保したり、必要な研修に通わせる費用や研修中の代替人員の確保などのコストがままならない。結果として、規模が小さい法人ほど加算取得をあきらめてしまうという悪循環の構造が生じやすくなっている。
● 政府が掲げる「介護離職ゼロ」目標の行方は?
  政府は、「家族の介護による離職」(介護離職)をゼロにする目標を掲げ、2015年度補正予算案では、921億円をかけて2020年初頭までに約10万人分の在宅・施設サービスの上乗せ整備を進めるとしている。だが、厚労省が示す整備対象には、先にあげた訪問介護・通所介護という2大サービスは含まれていない。対象となっているのは、特養ホームや老人保健施設といった施設系サービスに加え、認知症グループホームやケアハウスなどの居住系サービス、そして、小規模多機能型居宅介護や定期巡回・随時対応型サービスといった「包括報酬」(サービス頻度にかかわらず報酬は一定)系のサービスとなっている。
  ちなみに、定期巡回・随時対応型サービスは、同じ訪問系の訪問介護と比較して実受給者数はおよそ100分の1に過ぎない。確かに「増えすぎたサービス分野を整理し、介護保険の効率化を進める」ためには必要という声もある。だが、利用者ニーズの高いサービスが冷遇され、普及半ばのサービス整備だけが進む中、直近の介護資源がアンバランスな状態に陥らないかどうか。今後も注視が必要だ。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2016.01.28
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