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平成28年度診療報酬改定案が答申
〜在宅復帰・療養のさらなる強化に着目〜
● 在宅復帰・在宅療養に関する加算
  2月10日に開催された中央社会保険医療協議会(中医協)総会で、平成28年度の診療報酬改定案が諮問・答申された。全体は0.84%のマイナス改定だが、医療にかかる本体報酬は引き上げとなっている。紹介状なしで大病院を受診した場合の定額負担の導入や、かかりつけ機能をもった医師・薬剤師への手厚い評価などが注目されているが、ここでは前回(平成26年度)改定での「在宅復帰・在宅療養強化」の方向性がさらに際立った点についてふれてみたい。
  まず、看護師配置を手厚くした7対1一般病棟入院基本料などの要件である「自宅への退院患者割合」が、7割5分から8割以上へと引き上げられた。代わりに、この「自宅」の中には、後述する「在宅復帰機能強化加算」を算定した有床診療所(療養病床含む)が加わっている。ちなみに、この要件は、平成26年度改定で誕生した地域包括ケア病棟の入院基本料においても適用されている。
  この有床診療所における「在宅復帰機能強化加算」だが、直近6か月以内に退院した患者の在宅復帰率が7割以上という要件に加え、「退院後1か月以内に診療所の職員が患者宅を訪問したり、在宅医療を手がける医師などから情報提供を受けることで、患者の在宅生活が1か月以上継続する見込みであることを確認・記録する」ことが必要となる。
  さらに、療養病棟からの在宅復帰機能強化加算については、在宅復帰の実効性を高めるために「在宅復帰率を計算する場合の対象患者の要件」が厳しくなった。具体的には、算定要件となる在宅復帰率を計算する場合、その分母の患者数から「自院の他病棟から転棟して1か月未満の患者」が除外される。「退院復帰間近の患者を療養病棟へと転棟させて在宅復帰率の底上げを図る」のを防ぐわけだ。
  また、退院支援については、新たな加算も設けられた。現行の退院調整加算に上乗せする形で「退院支援・地域連携業務」にかかる専従職員を配置したり、退院支援計画の立案や地域の介護サービス事業者との連携強化などが要件となっている。先の在宅復帰機能を強化した有床診療所などの受け皿がどこまで増えるかは予測しづらいが、地域の大病院と医師会、介護サービス事業者が連携しながら「地域包括ケア」に向けた新たな体制づくりを模索するきっかけになる可能性はある。
● 患者が安心できる在宅療養・生活継続の推進
  一方、在宅への患者の送り出しを強化した場合の受け皿だが、まず注目されるのは、外来応需体制を有しない在宅医療専門の診療所が初めて認められたこと。地域医師会からの協力の同意を得ることや、往診や訪問診療を求められた場合に「医学的理由」なく断ってはならないといったハードルはあるが、患者の在宅復帰が加速する中では、在宅医療資源の拡充に向けた期待は高まる。
  また、患者の退院直後に、当人が入院していた病棟の看護師などが在宅を訪問して療養指導などを行うことについても、新たな加算が設けられた。退院後訪問指導料といい、退院から1か月以内で5回まで算定できる。その際に、在宅療養に向けてバトンタッチされた訪問看護などと同行した場合には、この訪問指導料に「同行加算」もプラスされる。
  この他にも、在宅復帰の加速に向けた仕掛けが一気に手厚くなったというのが、今改定の特徴といえる。平成30年度には、介護報酬との同時改定が迫っているが、今後は在宅介護との連携を視野に入れた一体的な改革がさらに進んでいくことは間違いないだろう。
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2016.02.25
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