>  今週のトピックス >  No.3170
EPA看護・介護人材の就業範囲に拡大案
● EPA人材の国家試験合格率は年々上昇しているが…
  2014年10月から10回にわたり、厚労省は「外国人介護人材の受入れの在り方に関する検討会」を開催してきた。外国人技能実習制度の介護分野への拡大を含めた中間とりまとめは、15年2月に行われている。今年2月26日には、すでにEPA(経済連携協定)に基づいて入国している外国人介護人材の在り方について、集中的なとりまとめが行われた。
  周知のとおり、EPAによる介護人材の受入れについては、08年度の対インドネシアに始まり、09年度には対フィリピン、14年度には対ベトナムという具合に、現在3カ国を対象に実施されている。15年度までの受入れの累計は2000人を上回った。ただし、原則4年間の滞在中に国家資格である介護福祉士が取得できない場合、特例となるプラス1年間を除いて滞在延長はできない(つまり、その後の短期滞在資格での再入国以外では、国家試験の受験チャンスは2回のみ)。ちなみに、EPA人材の国家試験合格率は約45%で、年々少しずつ上昇はしているものの、全体の合格率より2割程度低くなっている。
● 有資格者となったEPA人材の活躍の場は広がりを見せるのか
  来日する当事者にとって厳しい状況が続く中、一方で政府としては協定相手国との関係もあり、人材の活躍範囲を拡大したいという意図がある。15年6月に打ち出した日本再興戦略でも、その旨がかかげられている。こうした意向を受け、今回の検討会のとりまとめでは、EPAで受け入れた介護人材の活躍できる職務範囲を広げるという提案がなされた。
  これまで、EPAで来日した人材の就労先としては、@定員30名以上の介護保険施設(特養ホームや老健など)、A@と一体的な運営が行われているデイサービスなどに限られていた。今回のとりまとめでは、この2種類に加え、B定員30名以上の特定施設(有料老人ホームなど)、C定員29名以下の介護保険施設(地域密着型特養含む)やそれと一体運営のデイサービスなど(@と運営が一体化されている場合などの条件あり)が提案された。さらに、D介護福祉士を取得できた人材については、訪問系サービスを含めた介護業務全般まで就労範囲を拡大する旨も示されている。
  注目されるのは、やはりDだろう。訪問介護の場合、利用者の居住場所に入り、1対1で対応するケースが多い。その場で他職員からのサポートを受けにくい中で、日本語によるかなりのコミュニケーション能力も必要とされる。国家資格である介護福祉士を取得しても、EPAによって来日した人材にとってハードルは一気に上がることになる。とりまとめ案でも、検討会内部での「外国人労働者の人権擁護等の観点から、なお、慎重に検討するべきである」との意見も併記されている(特に検討会に委員を出した日本労働組合総連合会は、訪問系サービスへの就業拡大に明確に反対の意向を示している:3月8日現在)。
  もっとも、外国人が訪問介護の現場ですでに就労しているケースは皆無ではない。たとえば「日本人の配偶者」など「身分に基づき在留する者」が、訪問介護のヘルパーとして働いている事例は以前から見られる。ただし、そうした就労者が利用者とのコミュニケーションなどに際して、どのような課題を抱えがちなのかという検証は十分になされていない。
  仮に訪問介護の現場まで就労範囲を拡大するのであれば、スムーズなサービス提供のために、事業所の管理者が必要に応じて同行訪問したり、随時の相談窓口などを設けることも必要だろう。当然、事業所側のコストも問題となるわけで、やはり最終的には介護報酬の議論とのリンクも必要になりそうだ。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2016.03.10
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