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20年後の超高齢社会に向けて新資格浮上
● 団塊の世代が85歳を迎える2035年の介護需要は?
  経済産業省では、昨年12月から「将来の介護需要に即した介護サービス提供に関する研究会」を開催してきた。これは、今から約20年後となる2035年に向け、介護サービス等の社会資源の不足にどう対処していくかというビジョン形成を目的としたものだ。その報告書が3月24日に公表された。
  2035年といえば、団塊世代が全員85歳以上となる。総務省の推計では、その時期の高齢化率(65歳以上の人口比率)は33.4%に、75歳以上は約20%と国民の5人に1人の割合となる。同時に介護が必要な人も急増することになり、要介護3以上の人は現在の1.7倍にまで増えると予測されている。
● 高齢者の生涯設計をサポートするための新資格は誕生するのか
  今回の報告書では、そうした時代の到来に向けて、高齢者福祉施策や介護保険制度といった公助・共助に過度に依存しないための生涯設計のあり方の必要を説いている。たとえば、高齢者自らのリスク認識を高めるとともに、介護保険制度をはじめ住まいや金融資産に関する認識を醸成させるというものだ。介護保険制度への認識醸成としては、現在、プロの介護職になるための入口研修となっている「介護初任者研修」を当の高齢者にも受講させるという案も示されている。
  そうしたさまざまな提案の中で、特に注目したいのが、高齢者の生涯設計をサポートするための新たな資格を設けるというものだ。この新資格の機能としては、高齢者の意思にもとづく権利行使や選択(たとえば、介護サービスを受けるために住み替えを行うなど)を支えるべく、その高齢者に寄り添いながら権利行使等の支援を行っていく。また、個人情報を管理しつつ、支援に必要な関係機関との連携も手がけていくとしている。
  介護保険でいえば、ケアマネジャーに近い存在といえるが、想定されるサポート分野はかなり広い。たとえば、「有料老人ホームに移り住んで介護サービスを受ける」という場合、この新資格の職種としては、「介護サービスの調整」や「必要に応じた医療とのバイタルデータ共有」、そして「適切な住み替え先を探すためのアドバイス」、「入居時や入居後に必要な生活資金の引き出しや集配金(判断能力が衰えている人に対する権利擁護事業に近い)」と広範囲に対応することが想定されている。
  いわば、ケアマネジャーにMSW(医療ソーシャルワーカー)、住宅アドバイザー、成年後見人(金融資産のアドバイスなどを行うとなればFPなど)の資格がミックスされたような職種が浮かんでくる。高齢者にとっては、老後の人生設計にかかるトータルサポーターということにでもなるだろうか。ちなみに報告書では、土台となる資格として、やはりケアマネジャーのほか社会福祉士をあげている。
  ただし、あくまで経産省内の研究会による報告書の段階なので、実際に具体化されるまでにはかなりの道のりが必要になるだろう。実際、新職種の報酬についても、公費や社会保険、私費などの選択肢を幅広くとっていて、報酬の体系も定額制を基本としつつインセンティブを付与するという具合にイメージとしてはかなり漠然としたものになっている。
  とはいえ、日本人の平均余命がまだまだ延びると予想される中では、急増する認知症者の権利擁護という意味でも、セルフサポートへのニーズが高まるのは間違いない。今後、厚労省なども含めて具体化に向けた施策検討などが早々にスタートする可能性もある。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2016.04.14
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