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変わる金融検査、銀行は戸惑いも
● 金融庁、リスキーな融資支援へ
  日銀によるマイナス金利が導入され早2カ月、今度は金融庁がアベノミクスへの援護射撃を始めました。
  3月7日付日本経済新聞朝刊3面に載った「有望中小へ融資増える?」という記事によれば、2月下旬に開かれた地方銀行頭取との意見交換会で金融庁は「赤字企業にも成長資金を」と融資姿勢の見直しを迫りました。
  バブル崩壊後、銀行が苦しんだ不良債権問題を解決するため、赤字企業への融資を厳しく査定し、償却を促したのは当の金融庁でした。しかし前例のない金融緩和でも日本経済がデフレから脱却したとは言い難く、従来に比べリスキーな銀行融資を支援する方針へ転じたのです。
  銀行検査でのポイントを示した金融検査マニュアルでは、次のような例を挙げています。「ある地銀が債務超過だった家具製造卸向け融資5億円の借り換えに応じた際、どう将来性を見極めたか?」「地銀の担当者が倉庫に出向き在庫を確認、売り場で商品の人気を調べ実力判断」「こうした融資には金融庁も『問題なし』とお墨付きを与えた」
  この方針転換、90年代後半のピークに比べ7割の水準まで残高が落ち込んだ中小企業融資を活発にし、日本経済の再生へつながる期待が持たれています。さらに最大の利点は口先介入ゆえ、1円たりとも税金の投入が不要なこと。財政再建とデフレ脱却という二律背反に悩むアベノミクスにとって、夢の処方箋にさえ見えるのです。
● ハイリスク融資に戸惑う銀行
  ところが銀行の現場からはこんな戸惑いも聞こえてきます。
  「銀行は審査のプロだが、商品知識ではとても融資先にかなわない」
  「在庫の確認一つとっても、融資先に反論するのは相当な経験が必要」
  「売れ筋は変化が激しく、素人である銀行が商品の将来性まで見極めるのは絵に描いた餅」
  実は筆者も金融庁が例に挙げた企業とは別の家具製造卸を地銀で担当、定期的に工場を実査した経験があり、整理整頓を見るだけで経営者の力量が分かります。
  しかし、広い工場に散っている原材料、仕掛品、完成品などの在庫を帳簿と合わせることは到底無理、ましてや売れ筋の見極めは早々に諦めました。
  このような経験は筆者の勉強不足や怠慢が原因で、能力ある担当者なら目利き力を発揮出来るかもしれません。ただコンビニで毎週大量に並ぶ新商品のうち生き残るのはごくわずか。売れ筋になればハイリターンが望めますが、その確率は低く、商品目利きは概してハイリスクと言えます。
  何十倍、何百倍のハイリターンが有り得る証券投資と違い、銀行は預かったお金を貸付け、利ザヤで稼ぐミドルリターンの商売。目利きに頼った債務超過先へのハイリスク融資に経済合理性はありません。ハイリスク・ハイリターンな資金をお門違いな銀行に押し付けると将来の金融危機再来もありますよ、という声が銀行、証券の双方から漏れています。
  
亀谷 保孝
1957年、秋田市生まれ
1980年、早稲田大学法学部を卒業、同年鰹H田銀行入行。有価証券マネージャー、外為カスタマーディーラー、融資業務などを担当。
2000年退職後、日本株/金/REITへの長期分散投資や不動産投資で成果を挙げる一方、金融経済全般の著作、講演、経済誌記者などの活動を続けている。
【著書】
「かめさん流 スローな投資術」(東洋経済新報社)
「世界一カンタンde楽しい!デリバティブの教科書」(秀和システム)
「もし、あの成功した寿司屋の新人女将がキャッシュフローを知らなかったら」(秀和システム)
【DVD】
「かめさん流 簡単に分かりやすく知るデリバティブ」(ブレーン)
  
2016.04.21
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