>  今週のトピックス >  No.3200
熊本地震〜長期化する避難生活での健康維持
● 常日頃から意識したい「自然災害リスク対策」
  4月14日夜および16日未明の2回、熊本県熊本地方を最大震度7の地震が襲った。この地震による死者は49人、避難生活が長期化する中でエコノミークラス症候群などによる関連死が疑われる人は18人(5月9日内閣府発表)にのぼっている。さらに、13,900人近くが依然として避難所での生活を強いられており、特に中高年層を中心とした健康被害が懸念されている。
  先に述べた車中泊などによるエコノミークラス症候群のほか、避難所の密集した環境内での感染症やロコモティブシンドローム(運動器症候群)、服薬管理の困難さによる疾病悪化、さらには口腔ケアが不十分な状況下での悪影響など、数え上げればきりがないほどのリスクが被災者をとりまいている。そうした中、医療・介護にかかる支援チームが続々と現場に入っているほか、行政からは、保険証を紛失した人などが「保険証なしで医療・介護を受けられる特例」なども発出されている。
  一方で、今後も避難生活を継続せざるをえないケースを想定した場合、疾病・介護予防の観点からのセルフケアについても啓発をさらに広げる必要がある。今回の地震や東日本大震災のみならず、日本の風土ではどこでも大きな自然災害に見舞われるリスクがある。そうした中で、すべての国民が一般常識として身につけていくことも今後は求められる。
● 「生活不活発病」を予防する
  今回の震災を受け、厚労省が設けている特設サイトでは、被災地や避難生活での健康維持についての情報を数多く掲載している。その中から、特に生活が不活発になることによる心身の機能低下(いわゆる生活不活発病)を防ぐための心得に着目したい。特に高齢者の場合は、数日横になった生活を続けたりすることで著しい筋力低下に見舞われ、その結果、転倒リスクなども急速に高まりかねない。
  このケースにおける一番の問題は、「被災前」と「被災後」でしている生活が大きく変化しているにもかかわらず、自分での振り返りを十分に行う余裕がないことだ。そこで、厚労省では、この被災の前後での「生活の変化」にかかるチェックリストを提示している。具体的には、「屋外を歩くこと」「自宅内を歩くこと」「(入浴、トイレ、食事など)身の回りの行為」「車いすの使用」「外出の回数」「日中身体を動かすこと」の6項目について、状況として当てはまる内容(1人で歩いていた、誰かと一緒なら歩いていた、歩いていないなど)をチェックしていくというものだ。被災の前後で1つでもランクダウンしている項目があれば「要注意」とし、保健師や救護班、医療機関などに相談することを勧めている。
  避難所における環境整備も重要だ。5年前の東日本大震災に際して、筆者もいくつかの避難所の状況を取材したことがある。そこで介護やリハビリの支援者から聞いた話に、「布団をぎっしりと敷き詰めたりする中で、(若い人には何でもなくても)歩行がおぼつかない高齢者などが余裕をもって通行しにくい状況が生まれる」というケースだ。その結果、動かなくなっての筋力低下のみならず、夜間にトイレに立つのを防ごうと水分摂取を控え、熱中症などになるリスクも増えてくるという。専門職が支援に入れば着手できる点だが、被災直後で混乱している中では、一定期間改善されない場合もある。日頃の地域での介護予防教室などで、こうした被災時の対応知識なども啓発していく必要があるだろう。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2016.05.12
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