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● 一元化法の端数処理のルールが原因
平成28年度の年金額は、物価、賃金によるスライドは行われず、平成27年度から据え置きとなります。据え置きということであれば、平成27年度の年金額と同額が支給されるはずです。ところが、本来同じはずの支給額が28年4月と、28年6月以降とではわずかですが“微妙に”異なります(平成27年10月以前から厚生年金や国民年金を受給している方が対象)。
その原因は、平成27年10月から「被用者年金一元化法」(以下、「一元化法」という)が施行され、共済年金が厚生年金に組み込まれたことによります。
一元化法では、共済年金と厚生年金の規定に食い違いが見られた場合、原則、厚生年金の方の規定に統合されますが、2カ月ごとに支払われる各金額に1円未満の端数が生じた場合の切り捨てられた金額の取扱いに関しては、共済年金が従来から行っていたルールに統合されることになりました。国民年金もそれに合わせて変更となります。一元化法適用後の端数処理に関するルールを簡単に説明すると、次のようになります。
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年金額は、従来の100円未満四捨五入から、1円未満四捨五入に改正となる。 |
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A |
偶数月に支給される各金額に小数点以下の端数があれば切り捨てとなるが、翌年2月の支給時に1年間に切り捨てられた端数の合計額が上乗せされる。 |
● 一元化法施行前と後の年金額を比較
それでは、実際に年金額の計算をしてみて、一元化法施行前と後とでは年金額にどのくらい差が生じるか比較してみましょう。ここでは、国民年金を例にして、保険料納付済期間が450カ月(30カ月が未納)、平成27年10月以前から年金を受給している人のケースで解説していきます。なお、平成27年12月以降に年金受給を開始した人は、最初から一元化適用後のルールで計算された金額が支給されるので、微妙な差は生じません。
<一元化適用前の支給額>
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老齢基礎年金の額 780,100円×450/480=731,343.75 ⇒ 731,300円(100円未満四捨五入) |
A |
各支給月の支払額(すべて同額) 731,300円÷12×2=121,883.333… ⇒ 121,883円(1円未満切り捨て) ※切り捨てられた金額は、受給権者に支給されず年金積立金となります。 |
↓
<一元化適用後の支給額>
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老齢基礎年金の額 780,100円×450/480=731,343.75 ⇒ 731,344円(1円未満四捨五入) |
A |
平成28年6月・8月・10月・12月と平成29年4月の支給額
731,344円÷12×2=121,890.666… ⇒ 121,890円(1円未満切り捨て)
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年金は年度始めに金額が決まりそれを年6回に分けて支給されます。平成28年6月に支給されるのは、平成28年4月・5月分です。 |
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B |
平成29年2月の支給額(4月〜翌年2月の切り捨てた端数の合計額を上乗せする)
121,890円+0.666…円×5=121,890円+3.333…円=121,893.333…円
⇒ 121,893円(1円未満切り捨て)
※ |
平成28年6月〜平成29年2月の計5回分の切り捨てられた金額が、平成29年2月に上乗せされます(平成28年4月分については平成28年2月・3月分が支給されますが、これは一元化法適用前の計算式で算出のため端数取扱いの対象外となります)。 |
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↓
<一元化法施行前と後の各支給月の年金額の比較> |
一元化法 適用前 |
27年6月 |
27年8月 |
27年10月 |
27年12月 |
28年2月 |
28年4月 |
121,883円 |
121,883円 |
121,883円 |
121,883円 |
121,883円 |
121,883円 |
一元化法 適用後 |
28年6月 |
28年8月 |
28年10月 |
28年12月 |
29年2月 |
29年4月 |
121,890円 |
121,890円 |
121,890円 |
121,890円 |
121,893円 |
121,890円 |
年金を受給されているお客様の中には、この6月や来年2月に金融機関の口座に振り込まれた金額がこれまでと微妙に異なっていることを不思議に思う方がいるかもしれません。話題のひとつにしてみてはいかがでしょうか。

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右田 修三 (みぎた・しゅうぞう)
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一般社団法人ソーシャルバリューファーム 代表理事
千葉県出身。大手生命保険会社で、人事・教育関連部門、営業所長、査定部門の業務に従事した後、資格予備校勤務を経て独立。現在は、主に、学生の就活支援や失業者の再就職支援等を中心にキャリア啓発のための講義や、職業選択・職業能力開発に関するアドバイス等を行っている。
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