>  今週のトピックス >  No.3208
育児と介護の「ダブルケア」負担約25万人
● 晩婚化・晩産化傾向が生んだ現代社会の課題
  4月28日、内閣府の男女共同参画局が「育児と介護のダブルケアの実態に関する調査」の結果を公表した。その名のとおり、育児期にある者(世帯)が、同時に親の介護も担うという状況をダブルケアという。晩婚化・晩産化の傾向が進む中、現代的な課題として浮上してきたことを受けての調査といえる。
  今回明らかになったのは、このダブルケアの推計人口が、女性で16.8万人、男性で8.5万人、計25.3万人という数字だ。育児を担う者が999.5万人、介護を担う者が557.4万人という数字と比較すればわずかではあるが、すでに20万人を突破しているという状況は無視できない。ダブルケアを担う者の年齢は、男女ともに30〜40歳代が中心であり、その点を考えた場合、就労によって家計を担う中心とも言える。そうした世代の負担をいかに軽減していくかは、わが国のこれからの経済状況なども大きく左右するポイントとなる。
● ダブルケアとキャリア形成・経済的負担との深い相関
  ちなみに、ダブルケアを行う人の就業状況を見ると、男性の場合は「有業者」が9割を超えるのに対し、女性は「無業者」が48.6%とほぼ半数。男女でのワークライフバランスの格差が顕著に現れている。その女性の無業者の意向を見ると、就業希望者は63.3%に達し、これは「育児のみを行う者」のケース(60.1%)よりも高い。ダブルケア自体がそれなりの経済的負担を要する点を考えた場合、「家でダブルケアに専念する」ということの家計リスクは高いことが想定される。さらに、年齢が30〜40歳代となった場合、その時期におけるキャリア形成機会の喪失という焦りも上記の数字に現れているといえそうだ。
  では、そうした女性の就業を叶えるためには何が必要なのか。今回の調査では別途インターネットによるモニターアンケートも行われている。その質問項目の中に、「ダブルケアに直面して業務量や労働時間を変えなくて済んだ理由(複数回答)」がある。それによれば、男性の場合、「家族の支援が得られた」が47.3%でトップとなっている。これに対し、女性の場合は「育児サービスを利用できた」(38.2%)、「病院・老人福祉施設等が利用できた」(29.2%)、「両立可能な勤務条件で働くことができた」(28.1%)が上位を占め、「家族の支援」は27%にとどまっている。この点を見ると、女性側が就業継続を果たしていくためには、配偶者等の理解や協力もさることながら、社会資源や企業側の支援の充実が求められていることになる。昨今、保育士不足や介護職不足が大きな政治課題になっているが、晩婚化・晩産化が進む中での女性の社会進出を促すうえでも欠かせない視点といえる。
  国は現在、一億総活躍国民会議などの場で、介護と保育を複合化したサービスの推進や、保育士と介護福祉士をダブルでとりやすくするための「多能工化(マルチタスク)」に向けた資格制度の見直しなどに着手しようとしている。また、厚労省は、ひとり親家庭を対象としたワンストップで多様な社会資源につなぐことのできる自治体窓口を整備するべく平成28年度予算で1.8億円を計上している。
  とはいえ、労働力人口が減少傾向に入りつつある中で、上記のような社会資源やそれを担う人材の確保は決して簡単ではない。ダブルケアへの課題対処を一つの切り口とした場合、さらに思い切った改革を進めていくことが欠かせない時代になっている。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2016.05.26
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