>  今週のトピックス >  No.3212
税逃れの歴史とパナマ文書
● 税逃れ、米大統領選の争点へ
  ヒラリー・クリントン候補とトランプ候補の対決となりそうな今年11月の米大統領選。日本でも「米国初の女性大統領?」「日米安保は?」とかつてないほど関心が高まっていますが、米国内で最大の争点は経済格差です。そこへ降ってわいたパナマ文書は、税が持つ富の再分配機能ゆえ、両陣営の政策論争に発展しています。
  オバマ政権も、匿名性が高く、スイス銀行と呼ばれるスイス三大銀行やプライベートバンクを、脱税ほう助の疑いで追及してきました。この結果、巨額の罰金による廃業が相次ぎ、税逃れの国際的な監視網が出来上がったかに見えたのです。
  ところが法律上は問題ないパナマの銀行口座が、スイス銀行と同じ匿名性から「後ろめたい金?」「税金払っていないの?」と疑われる企業や政治家、富裕層が続出。同じようなタックスヘイブン(租税回避地)が、スイスやパナマ以外にも世界中にあるのですから、オバマ政権の奮闘は徒労に終わるのでしょうか。
● 史上最大の税逃れ
  40年分のデータが入ったパナマ文書ですが、スイス銀行の秘密主義は約300年の歴史があります。その間、権力者や富裕層が戦争や革命による財産の収奪を恐れ、永世中立国スイスに財産を預けてきました。
  ただ4000年以上前のエジプトで、仮病を使いピラミッド建設の労役をさぼっていた男の話を聞くにつけ、「何千年経っても人のやることは変わらないな」と微笑ましくなります。日本で最古の税と言われる租庸調のうち、庸は労役を指しますから、仮病もささやかな税逃れに違いありません。
  むしろ驚くべきは、租庸調を含む律令制が法律上は明治維新後、1885年の内閣制まで1200年近く存続していたこと。つまり徳川幕府は税を朝廷に納めず、勝手に年貢を徴収していた訳ですから日本史上最大の税逃れと言えるでしょう。ちなみに世界史上最大の税逃れは、各地の税制を破り続けることで旧大陸を征服したアレキサンダー大王という説が有力です。
● 繁栄する税逃れ産業?
  「結局権力を握った者勝ち?」「自分たちは源泉徴収やマイナンバーで誤魔化しようがないのに」
  そんな恨み節に応えようと各国も動き出しています。G20が税務情報の交換協議を始め、日本は海外移住する際に一定以上の株式含み益へ所得税をかける出国税で税逃れを捕捉しようと躍起です。
  ところが一方スイスでは、口座情報の提供を再び禁じる憲法改正案へ署名が集まり、国民投票に付されようとしています。タックスヘイブンへ預けられた後ろめたい金は、高度な運用ノウハウを求めスイス銀行に再預託されることが多く、秘密主義は国益にかなうと考えるスイス国民が依然多いのです。
  税逃れ産業の繁栄で割を食うのは私たち。ニュースにアンテナを張り、言うべきことは声を上げましょう。「保育園落ちた、日本死ね」のブログだって、政策を動かしたのですから。
  
亀谷 保孝
1957年、秋田市生まれ
1980年、早稲田大学法学部を卒業、同年鰹H田銀行入行。有価証券マネージャー、外為カスタマーディーラー、融資業務などを担当。
2000年退職後、日本株/金/REITへの長期分散投資や不動産投資で成果を挙げる一方、金融経済全般の著作、講演、経済誌記者などの活動を続けている。
【著書】
「かめさん流 スローな投資術」(東洋経済新報社)
「世界一カンタンde楽しい!デリバティブの教科書」(秀和システム)
「もし、あの成功した寿司屋の新人女将がキャッシュフローを知らなかったら」(秀和システム)
【DVD】
「かめさん流 簡単に分かりやすく知るデリバティブ」(ブレーン)
  
2016.06.02
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