>  今週のトピックス >  No.3220
社会保障の効率化に向け多様なしくみが浮上
  政府が10%への消費増税先送りを表明し、経済・財政再生計画の工程も岐路に立たされようとしている。特に、医療や介護などの社会保障のあり方をどうするかについては、参院選を前にさまざまな議論が噴出することになるだろう。
● ソーシャルインパクトボンドの導入はあるのか
  そうした中、先に開催された内閣府の経済財政諮問会議において、厚労省から「社会保障の効率化」を実現するためのさまざまな提案がなされている。その中から、今後の我が国の社会保障の姿を一変させかねないテーマを2つ取り上げたい。
  1つは、「民間の活力・資金の活用」を目指す中でかかげられた「医療・福祉分野におけるソーシャルインパクトボンドの導入」だ。そのしくみは簡単に説明すると、以下のようになる。
   地域の医療・福祉課題に取り組む民間事業者に対し、民間主体が資金を提供する(事業者はその資金をもとにサービス提供を行う)。
   行政は医療・福祉などの課題解決に向けた目標・指標を設定したうえで、@の民間事業者と契約を結ぶ。
   独立したサービス評価機関がAの指標にもとづいて@の事業を評価し、目標の達成度合いにもとづいて行政から民間事業者に報酬が支払われる。
   Bの報酬をもとに、民間事業者が資金提供者に資金の返済を行う。
というものだ。
  現行では、サービス提供を行ううえで必要となる原資は事業者の自己資金(行政からの委託費や社会保険報酬などの収入含む)・借入金や株式会社における株の発行、寄付金などがあてられる。これに対し、上記のしくみは別の資金供給法となる。
  もともとソーシャルインパクトボンドとは、金融機関が社会貢献型の事業に対して一般投資家などに発行する債券を指し、アメリカなどでは、すでにさまざまな社会事業で導入されている。このしくみをそのまま導入するとすれば、債券であるという点で資金提供者には事業に対する配当がなされるしくみも考えられる。これによって、行政のかかげる指標の実現に向けた「事業者努力によるインセンティブ」を高め、社会保障の費用対効果を上げるという狙いが見える。
● 社会保険外サービスの今後は?
  もう1つかかげられているテーマは、多様な社会保険外サービスを普及させたうえで、ヘルスケア産業の発展をうながすというものだ。たとえば、要介護者などの生活支援分野でいえば、配食や(介護保険が適用されない部分での)買い物支援、旅行の付き添いなど、保険外の多様なサービスが想定される。現行でもこうしたサービスはあるが、介護保険などが適用されないゆえに原則として全額自己負担となり、利用者の所得事情によって活用状況に差が生じやすい。ただし、中には有償ボランティア(実費負担のみ)のような事業もあり、サービス資源のすそ野が広がることで、低所得者でも利用しやすい環境が広がる可能性はある。今回の提案では、「保険外サービス活用ハンドブック」などの周知・活用によって、多様な事業者参入を促しサービス資源の拡充と健全化を図るとしている。
  いずれにしても、現行の公費による福祉サービスや社会保険事業のしくみに、一般からの投資やインフォーマルな事業を組み合わせていくという点で、急伸する社会保障財政の効率化を図る国としては有望な手段としての位置づけを図っていくことになりそうだ。ただし、こうしたしくみは、我が国の伝統的な社会保障制度の姿を大きく変えかねない。国民理解がどこまで得られるかは不透明だ。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2016.06.16
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