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認知症者の事故実態把握で異例の省庁連携
● 増え続ける認知症高齢者による事故
  認知症高齢者が鉄道事故で死亡した事件で、鉄道会社側が遺族に対する賠償責任を求めていた裁判は、最高裁が「遺族側に賠償責任なし(鉄道会社側の請求棄却)」とする判決を出した。2025年には認知症高齢者が700万人(高齢者人口の約20%)に達するという推計もある中、今回の判決には社会的にも大きな注目が集まり、同時に胸をなでおろした当事者家族も多かったに違いない。とはいえ、こうした事故に限らず、認知症高齢者の徘徊等による行方不明事件などは後を絶たず、平成27年には1万2,208人と年々増加傾向にある。また、認知症のドライバーによる高速道路の逆走事故なども大きな社会問題となりつつある。
  こうした社会不安の高まりを受け、厚労省は法務省や国交省、金融庁などと「認知症高齢者等にやさしい地域づくりに係る関係省庁連絡会議」を開催している。その中で、5月31日に開催された第4回会合では、関係省庁における認知症高齢者等の事故の実態把握を目的としたワーキンググループの取り組みが確認された。
  具体的な実態把握の推進策として、
   厚労省は「日常生活におけるトラブルや対応実態についての情報収集」、
   法務省は「事故等に関する裁判事例についての情報収集」、
   金融庁は「事故事例に関して民間保険の保険金支払い対象となったケースについての情報収集」、
   国交省は「認知症の人による鉄道事故についての情報収集」、
   警察庁は「認知症の人が交通事故を端緒として自動車運転免許の取り消し等にいたった事案についての情報収集」などをそれぞれ管轄するというものだ。
● さまざまな角度から考える事故対策と今後の課題
  認知症高齢者による事故といったピンポイントでのテーマに対し、これだけの省庁が情報収集の連携を図るというのは極めて稀といえる。認知症高齢者の鑑別診断や早期支援がまだ道半ばという中で、それだけ実態把握が難しいテーマであることを示している。
  ちなみに、金融庁からは参考資料として「現行での日本の損害保険」の中から「個人賠償責任保険」についての資料が提示された。当然、この既存のしくみだけでいいのかどうか、新しい賠償責任保険の枠組みが求められるのかどうかなどが今後は議論されることになる。また、厚労省は、認知症高齢者が行方不明になった際に「地域の生活関連団体(タクシー会社や郵便局、ガソリンスタンド、コンビニ、銀行、宅配便業者、コミュニティFM放送局など)等が捜索に協力して、速やかに当事者を発見・保護するしくみ」として、高齢者の見守り・SOSネットワークの構築を推進している。このネットワーク事業を実施している地域は平成26年までに616か所にとどまっているが、さらなる実施状況の調査などを行い、今年9月までに結果を公表する予定となっている。
  いずれにしても、認知症高齢者に対する見守りや事故防止・権利擁護などは、いまや国民的・国家的課題と言っていいだろう。政府は現在、家族の介護によって仕事を辞めざるをえないという「介護離職」を将来的になくすという目標を掲げている。この「介護離職」の内訳でも、認知症となった家族の見守りを行わなければならないといった事情が大きな比重を占めている。今回のワーキングループがどこまで正確な実態把握を進めていけるのか、国民不安の高まりの中でスピード感も求められる課題であることは間違いない。
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田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、『2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート』『認知症ケアができる人材の育て方』(以上、ぱる出版)、『現場で使える新人ケアマネ便利帖』(翔泳社)など多数。
  
2016.06.30
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