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看護師の特定行為研修制度で何が変わるのか
● 研修制度の概要
  保健師助産師看護師法の改正により、平成27年10月から「特定行為に係る看護師の研修制度」がスタートした。一言で説明するのは難しいが、国が示した概要は以下のようになる。
   医師・歯科医師が行う診療の「補助」のうち、一定の行為を「特定行為」として明確化する。
   看護師が「特定行為」を行う場合は、医師等が作成する手順書によって行う。
   「特定行為」を行う看護師は国が定める研修を受ける、という具合だ。
  まず確認したいのは、「診療の補助」というのは、以前から医師・歯科医師の指示のもとで看護師が行うことが可能という点だ。たとえば、訪問看護でいえば「医師の指示書」があり、これまでもその指示書に基づいて「診療の補助」が行われてきた。しかし、患者の状態変化などが想定されるケースでは、そのつど医師・歯科医師の判断が必要となる場面も生じ、看護師としては「状態変化を医師等に報告したうえで、診療の補助を行う」という流れをとらざるをえない。
● 「手順書」に基づく「診療の補助」の新たなしくみ
  昨今の病床改革などにより、急性期から間もない状態不安定な(特に高齢の)患者が在宅医療などへバトンタッチされるケースはますます増えることが予想される。看護師としては、現場において「何をするか」のグレーゾーンが増えていくことになり、不安の中で逐一医師に確認をとらざるをえない。そこで患者の状態変化に対応が追い付かなくなれば、看護師の不安はさらに高まることになる。
  これを解消すべく、患者の状態変化まで想定した事前指示を医師・歯科医師が「手順書(病状の範囲を含め6項目を規定)」として発行する。看護師としては、患者の病状がその手順書に示された「範囲内」であれば、そのつど医師に指示をあおがなくても「診療の補助」を行うことができる──これが新たなしくみとして位置づけられたわけだ。しかし、このしくみには2つの制約が設けられている。それが、どんな診療の補助を対象にするのかという点と、どんな看護師が手掛けるのかという点だ。前者が「特定行為」とされ、後者が「新たな研修制度」となっている。
  前者の「特定行為」は、診療の補助のうち、「実践的な理解力、思考力および判断力」、さらに「高度かつ専門的な知識・技能」が特に必要とされるものであり、38行為が省令で位置づけられている。たとえば「気管カニューレの交換」や「脱水症状に対する輸液による補正」などがある。後者の研修については、「すべての特定行為区分に共通する共通科目」と「区分ごとに異なるものの向上を図るための区分別科目」がある。これをおおむね3〜5年以上の実務研修を積んだ看護師が、国の指定機関(看護協会など平成28年2月現在で21施設)で受講することになる。
● 研修制度の今後の課題
  ただし、現場の不安の大きさを考えると課題も少なくない。まず、特定行為についてだが、その中の5つの行為については、「技術的な難易度が高い」として看護協会などは「積極的な推進はしない」旨の声明を発している。また、研修機関については、地域偏在があるために受講機会の確保が課題となる。国は通信による受講も可能としているが、今年4月からは研修機関の確保のために全国各地で説明会の開催も順次実施することになった。このしくみが果たして順調に離陸するのかどうか、国は在宅医療の検討会なども増やしているが、改めて議論となることが予想される。
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2016.07.14
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