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医療保険制度のしくみ
●社会保険
  誰もが病気になりたい、ケガをしたいとは思いません。が、その可能性はすべての人がみな持っています。しかもその治療にかかる費用は、個人が全額負担するには大きすぎます。そのリスクを社会全体で分散し、健康なときから全員がお金を出し合いプールしておき、いざという時の費用をまかなう仕組みが医療保険制度です。
  医療保険制度は公的医療保険として徴収した保険料を基礎に、医療などを給付する形となっています。すべて日本に暮らす人は原則として加入義務があります。加入すれば当然、原則的に保険料が求められます。このように、一定の基準で全員が強制加入となる制度を(広義の)社会保険といいます。その意味では、国民年金や労働保険も社会保険の一形態です。
*狭義の社会保険は労働保険(労災保険・雇用保険)に対応する定義で、医療・介護・年金の3保険を指します。
●国民健康保険と職域保険
  わが国の公的医療保険は、大きくは地域保険と職域保険の二つに分かれています。
  地域保険とは、自営業者や農・漁業者などが住所を基準として加入する国民健康保険で、主に市区町村が運営の主体です。職域保険に加入しないすべての人が被保険者になります。
  職域保険は職場などを通じて加入するもので、次のものがあります。
(1)健康保険   一般の会社員などが対象で、主に大企業の会社員が加入する組合管掌健康保険と、主に中小企業の会社員が加入する協会管掌(協会けんぽ)があります。
(2)共済組合   公務員や私学教員を対象にした国家公務員共済組合、地方公務員共済組合、日本私立学校振興・共済事業団等があります。
(3)船員保険   船員の方が対象です。
●国民皆保険
  「国民皆保険」は一見、全員が同一の保険内容で加入しているようにも思えます。しかし、実態は保険の運営者や保険料・給付内容等について、かなりの差異がある現状です。その制度経緯や変遷は紆余曲折で、その時代背景や政治的動向を反映しており、また具体的な保険内容には差異も多く、今日においてもさまざまな課題が残されています。
  皆保険の成立過程では、まず企業で働く人を対象とした職域保険が先行しました。1927(昭和2)年に健康保険法が施行され、追って任意加入の国民健康保険が1938(昭和13)年に定められました。が、任意加入であることから現実には限られた人だけのものであったようです。
  戦後の混乱期を経て、貧富の差なく誰でも医療を受けられるようにすべきという世論が高まり、国民健康保険の加入を義務化する法改正が議論されるようになったのです。そしてついに1961(昭和36)年、未加入者にも市町村の国民健康保険への加入が義務付けられ、国民皆保険が達成されました。
  高度成長に伴い社会環境が整備され、平均寿命が大幅に上昇するとともに、増大する医療費、特に高齢者について社会全体で支えるべく1982(昭和57)年に老人保健法が定められました。
  しかしながら、昨今の急激な少子高齢化に伴い、医療保険制度は大きな転機を迎えました。右肩上がりの人口増加と経済成長を前提とした制度設計から方向転換し、給付と負担のバランスを保ち、医療保険制度の将来にわたる持続的かつ安定的な運営が求められています。2005年12月の「医療制度改革大綱」に基づき、2006(平成18)年10月より大幅な医療保険制度改正が実施され、老人保健も後期高齢者医療制度として再構築されています。
  以上の経緯から、制度的には大きく3つの医療保険分野−職域保険・地域保険(国民健康保険)・後期高齢者医療制度−により国民皆保険制度が成り立っているといえます。
2024.04.01
保坂
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