正直なところ、今回の人事異動は平成次郎にとって予想外でショックでもあった。年次からみてそろそろ機関長として現場に出るころとある程度は覚悟していたものの、地方勤務の全くない自分が、東京から遠く離れた東北の地方都市へ異動になるとは考えもしなかった。
同期の連中は皆それ相応の拠点に任命されているように思え、「どうして・・・」という思いが募る。赴任先の機関は人口約5万人のY市にあり、かつてB生命では業界を制覇していた時期もある名門機関であった。
しかし、それも今では20年以上も前の話となり、2年前に2つあった機関を統合し、現在は陣容も在籍22名で、効率も悪化の一途をたどっている。
内示を与えた部長は「立て直しのために君の力量を買った。会社の期待に応えて頑張ってほしい。なに、長くても3、4年の辛抱だよ」と激励とも慰めともつかない言葉をかけてくれたが、額面どおりには受け取れない。まして、金融不安だ、100年に一度の不況だと叫ばれているときに、機関長として初場所を踏まねばならない身の不遇を嘆くばかりである。かといって、そんなに嫌ならキッパリ会社と縁を切れるかというと、そんな度胸も自信も到底ない。
「社命とあれば致し方ない・・・」
次郎はなんとかショックから立ち直り、見ず知らぬ土地に思いをはせると同時に、どうやってこれまた東京育ちの妻に転勤の話を切り出すものか、思い惑うのであった。
|