次郎には、論理的に話をさせると雄弁になるという傾向があるが、同時に実行が伴わずすぐ馬脚をあらわすという欠点もある。本社での事務的な仕事ならそれも目立たないが、数字の世界では通用しない。
機関長会議で叱責された先輩機関長も、恨めしげにこちらを見ているようで、その後は心ここにあらずの状態で会議が終わってしまった・・・。
「とことんビジョンを語り合い、意志の結集を図る」と広言した手前、後に引けない心境で職員一人ひとりとの話し合いを始めた。
だが、いくら時間をかけても、「何でもいいから話をしてくれ」と頼んでみても、職員の反応ははかばかしくない。一般的に雪国の人は口が重いといわれている。しかし本当は情が深く、好人物が多いのだが、着任早々の次郎にはそれが見えてこない。「なんと強情で冷たいのだろう」と腹立たしくなり、話し合うことは時間の無駄と思うようになってきた。
次郎は自分では都会人のつもりでいる。「都会人はスマートで知性的であらねばならない。義理人情などを重視する経営は時代遅れだ」と信じて疑わない。従って、職員とお茶や食事を共にしておだてたりするつもりは毛頭ない。ただひたすら仕事だけを中心に話し合いの場を持ち、後援者などへのあいさつ訪問や契約の支援で駆けずり回った。
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