危惧したとおり、ゴールデンウイーク以降の職員の動きは鈍く、成果もない。結局、採用実績も4,5月登録はゼロで終わり、6月登録もこのままでは見込みが薄い。朝礼でいくら採用の必要性を訴え叫んでみても、「馬の耳に念仏」で、しらじらしくなるばかりである。
次郎は、現状の組織体制では何の前進も得られないと判断した。3人の組織長の昨年1年間の採用実績はわずか1名であり、組織長の任務を全うしているとは到底思えない。所属員から信頼を得ているようにも見えず、交代の必要があると決断したのも無理はない。しかし、代わりに誰を、となるとまた難しい。そこでまず、組織長にふさわしい最低限の条件を洗い出してみた。
この3つの条件に該当する職員を洗い出してみると、入社1年少しの田辺さん(42歳)が辛うじて残った。全員を今すぐ入れ替えることは不可能だが、できるだけ早く田辺さんを組織長にしようと、次郎はひそかに決心した。
生来、次郎は女性を口説くのが苦手である。妻にしても、結婚を焦った彼女の方が積極的に迫り、いつの間にか一緒になっていたという経緯がある。「機関長たるもの、女性の一人や二人口説けないでは一人前になれない」とどこかの先輩から聞いた覚えもあるが、いざとなると舌も満足に動かなくなる。だが、そんな言い訳もしてはいられず、ある日のこと、意を決して田辺さんに語りかけた。
「今の機関を発展させるためにあなたの力を貸してほしい。私はあなたを信頼しているし、微力ながら全力で応援する」と。だが、それを聞いた田辺さんはびっくりしりして、「とても期待に応えられない」と逃げの一手であった。