5月も中旬を過ぎ、市場や機関の状況が次郎にもようやく分かりかけてきた。3人の組織長は相変わらず協力的な姿勢を見せてくれず、昔の良き時代のことを愚痴まじりに話すだけである。6月登録も結局ゼロとなり、これで赴任後2カ月採用ができなかったことになる。月末に開催される不振機関長会議に呼び出されるかと考えると気も重くなるが、それでも必死に採用活動に走り回った。
Y機関では、昨年度まで前任の機関長が毎月採用イベントを実施していたが、ここからの採用実績は皆無で、単なる人集めに形骸化していた。このため職員の採用活動や話法も、イベント集客の安易なものに慣れ、それなしではどうしたらいいのか戸惑っているありさまである。仕方なしに今までの見込カードやリストを引っぱり出し、やみくもに訪問をしているが、いたずらに時が過ぎるだけである。
そんな5月の締切りも近い21日の11時ごろ、突然田辺さんが2人の女性を機関に連れてきた。入社の説明をしてほしいという。次郎は、夢ではないかと思いながらも、とるものもとらず事情を聞くと、2人とも32歳、大学の同級生で、おまけに容姿端麗で家庭的にも恵まれている。これまでY機関では大学卒の職員は在籍したことがなく、2人は相当場違いの感がある。
すっかり舞い上がった次郎は懸命に保険の必要性や仕事のやりがい、業界事情などを説明した。こんな機関に関心を示すはずがないと半ばあきらめつつ確認すると、なんと2人も来週から勉強会に出席すると答えた。信じられない思いの次郎は、ぼうぜんとするのみであった。
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