機関長の立場でありながら、毎日一人で飛び込み訪問を実施するというのはたやすいことではない。始めたのは8月1日の土曜日、予定では次の土曜日の8日までとしているが、その間、機関長会議もあり、実質的には7日間となる。意気込んでスタートしたものの、まずお客になかなか会えない。10軒訪問し、せいぜい会えるのが1、2軒にすぎず、ろくに話も聞いてもらえない。縁起でもないと塩をまかれそうになったり、すごい剣幕で怒鳴られたこともある。
午後2時から4時まで訪問して軒数は38軒。曲がりなりにも話ができたのは10軒で、うち3軒からアンケートがもらえた。気持ちを奮い立たせ、再び夜8時から同じ地域を訪問した。さすがに在宅率は高いが、ガードは依然固い。また来たのかと驚く人や、夫婦げんかの最中に飛び込んだりと、昼とは違った感触もあったが、結局、訪問が42軒、面接22軒、アンケート11軒に終わり、実践初日は終了した。
疲れた体を引きずり、1週間続けられるのかと、さすがに不安になった。だが、自分が密かに決断しスタートした以上、途中でやめれば悔いが残る。流れ落ちる汗でびっしょりのシャツを気にするゆとりもなく、翌日も商店街への飛び込みを行った。
最初の反応は3日目の午後、ある美容院にアンケートをお願いしたときであった。女性店員が「うちの若い子が年金に入るようなことを言っていたわ」と教えてくれたのである。
その場ですぐに紹介してもらい、携帯パソコンで商品説明をしたところ、同僚の女性と合わせ2件即決で申し込みを得た。「地獄に仏」とはこのことである。次郎は二人の女性と店主の姿に後光が射しているかに見え、勇気凛々、それからは断りも罵声も気にならなくなった。
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