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機関経営12ヶ月
「売れない時代に売りまくる」(その4)
生保営業(募集編)
渡る世間に鬼は…
  機関長の立場でありながら、毎日一人で飛び込み訪問を実施するというのはたやすいことではない。始めたのは8月1日の土曜日、予定では次の土曜日の8日までとしているが、その間、機関長会議もあり、実質的には7日間となる。意気込んでスタートしたものの、まずお客になかなか会えない。10軒訪問し、せいぜい会えるのが1、2軒にすぎず、ろくに話も聞いてもらえない。縁起でもないと塩をまかれそうになったり、すごい剣幕で怒鳴られたこともある。
  午後2時から4時まで訪問して軒数は38軒。曲がりなりにも話ができたのは10軒で、うち3軒からアンケートがもらえた。気持ちを奮い立たせ、再び夜8時から同じ地域を訪問した。さすがに在宅率は高いが、ガードは依然固い。また来たのかと驚く人や、夫婦げんかの最中に飛び込んだりと、昼とは違った感触もあったが、結局、訪問が42軒、面接22軒、アンケート11軒に終わり、実践初日は終了した。
  疲れた体を引きずり、1週間続けられるのかと、さすがに不安になった。だが、自分が密かに決断しスタートした以上、途中でやめれば悔いが残る。流れ落ちる汗でびっしょりのシャツを気にするゆとりもなく、翌日も商店街への飛び込みを行った。
  最初の反応は3日目の午後、ある美容院にアンケートをお願いしたときであった。女性店員が「うちの若い子が年金に入るようなことを言っていたわ」と教えてくれたのである。 その場ですぐに紹介してもらい、携帯パソコンで商品説明をしたところ、同僚の女性と合わせ2件即決で申し込みを得た。「地獄に仏」とはこのことである。次郎は二人の女性と店主の姿に後光が射しているかに見え、勇気凛々、それからは断りも罵声も気にならなくなった。
販売は断りから始まる
  1週間の飛び込み訪問の結果、訪問総軒数434軒、1日平均60軒以上、アンケート86軒、設計書作成顧客数30軒で成果が6件(個人年金3件、子ども保険1件、終身保険2件)であった。これが多いのか少ないのか判断はつかないが、少なくとも今回の体験で販売について貴重な教訓と自信を得たのである。
その教訓とは…
(1)断りを突破してこそ販売が始まる
  数多く訪問すれば、先の美容院のような即決もあり得るが、まず断られるのが当たり前。終身保険に加入してくれたお客は、過去に不愉快なことがあり、いきなり文句を言われた家庭である。お詫びの訪問を重ね、一日に4回も訪問した結果、最後は次郎の熱意に感心したのだろう。保険販売はしつこくするとうまくいかない、とよく言われるが、逆に今はあまりにスマートになりすぎ、粘りも説得もなくなっているのではないか? むしろ強い断りにあったお客ほど見込客となり、最初の印象が良い人ほど駄目だったというのが次郎の実感であった。
(2)提案型セールスとは顧客に自分のニーズを気付かせること
  ニーズをつかみ、それにふさわしい商品の提案が大事というが、お客自身がニーズが分からなかったり、的外れな場合もある。例えば、「子どもの学資金が必要だ」と思っていても、世帯主がほとんど自分の保険に加入していないこともある。そんなとき、顧客の求めるまま「子ども保険」を売ることがベターなのか? 次郎は顧客に親自身の保障の必要性を訴え、気付かせ、終身保険の締結に至った。
(3)訪問、面接の量は成果に必ず反映する
  現在の職員の1日あたり訪問件数の実態は次郎の機関で約3件、これでは成果どころではない。まして保険の話で面接する数ともなれば…。行くところがないというのは言い訳にすぎず、それは次郎が実証済みである。セールスの基本である飛び込みも含め、職員にそのことをしっかりと理解させ、実行させることが機関長の役割であると痛感したのだ。
(4)お客はセールスマンの訪問を待っている
  訪問して驚いたのは、加入したセールスマンがその後フォローにあまり来てくれないという苦情が多いことである。
  “転換の時期や新商品が販売されたときに来るだけでなく、もっと情報提供してほしい”というのが大方の希望である。訪問頻度を高めればセールスチャンスは必ず広がるというのが今回の結論である。
  夏休みを目前にし、次郎の販売への挑戦第一ラウンドは終了した。機関長が毎晩一人で飛び込み訪問をしていたことが、誰とはいわず職員の間でうわさとなり、次郎を見る目が変わってきたのも事実である。
  そして、暑い夏休みが終わり、みんなが元気な姿をみせたとき、3人の組織長が次郎にこう申し出た。
  「これから毎週土曜日の午前中、組織ぐるみでエリアを飛び込みたいので、ノウハウを教えてください!」
  次郎は思わず耳を疑った。

執筆当時と時代背景が異なっており、一部現在の状況にそぐわない記載等がありますが、機関経営の本質に変わることはありませんので、あえて原文通りとしています。
(つづく)
2009.08.24
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