Y機関にもいろいろな業種のセールスマンが訪れる。職員を対象に商品の展示即売会やら印鑑、健康食品、野菜売りまでまさに百花繚乱だが、次郎がハラハラするほど職員は結構買うものである。
どこでどう調べてくるのか、次郎のもとに売り込みの電話がよくかかってくる。大抵は丁重に断っているが、飛び込みできたセールスマンには、営業の苦労が分かるだけに極力会うようにしている。その裏には、どんなセールスをするのか参考にしようという下心もあるが、共通して、ほとんどのセールスマンが最初に断れば二度と訪れることがない。また、一方的に商品説明をするが、相手の話を聞いたり、反応を窺ったりすることもない。
「5分間だけ」と約束しながら、こちらが打ち切らない限りずっとしゃべり続ける図々しいセールスマンもいる。一度、意地の悪い質問をしたら、答えられず捨てぜりふを吐いて帰ったセールスマンがいたが、怒るよりもあきれ果てたものである。
中には、二度、三度と訪問されれば検討してもいいなと思うこともあるのに、どうして継続して訪問しないのかと不思議でならない。
また、なぜ相手の家族構成や趣味、し好など基本的なことを知ろうとしないのかも不可解である。行きずりのセールスや単価の安い商品ならいざ知らず、地元の企業を訪問して、何十万もするような商品を売るにしては、合点がいかない。優秀なセールスマンもいることだろうが、次郎がいままで会ったなかには感心するようなケースはなかった。知識教育も大事だが、基本的なセールスのマナーやエチケット、そして顧客の心を的確につかむための教育の必要性を次郎はつくづく感じた。
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