ついこの間まで暑い日が続いたと思っていたのに、気がつけば朝晩はめっきり冷え込む時期となっている。10月も半ばを過ぎれば、山々はすっかり黄金色に装いを新たにすることだろう。
平成次郎の機関もようやく落ち着きを取り戻し、活動も定着してきたようである。心配していた永井さんも、新しいパソコンを購入し、ホームページを作ろうと張り切っている。何しろ職域が通信機器メーカーの製造工場だけに、相談したりアドバイスを受けられる専門家は大勢いる。近いうちに「保険なんでも相談室」をネット上に開設するめどもたち、そんな話題をきっかけとし、従業員との接触もかなりうまくいっているようだ。
一方の大塚さんも、手作りの「街づくりホットニュース」を月2回発行、名刺代わりに配っているが、なかなかの評判で、届くのを楽しみにしている人も増えているらしい。
ペア活動を解消、独自の道を歩み始めた二人だが、それぞれの個性を発揮しながら順調にいっており、次郎もひと安心である。
相変わらず日常の業務は多忙を極め、支社や本社から毎日送付されてくる書類、伝達事項、情報提供は山のようにある。不要と判断したものは思い切って破棄しないと収拾がつかなくなる。分かっていることだが、仕事に追いまくられ、いつの間にか机は書類の山となり、どこに何があるのか、はた目にはさっぱり分からなくなる。
そんな機関経営の日々、一見平穏無事、何事もなく過ぎているが、果たしてこのままでいいのかという疑問が次郎の胸中に芽生えてきた。考えてみれば着任以来、悪戦苦闘の連続であった。問題や心配事の発生しなかった日は1日たりともなかった。その都度、全力で問題解決に取り組み、何とか破たんが生じることなく今日まできた。だからこれでいいのかとも思う。少しやすらぎの時間を神様が与えてくれたのだと思わないでもない。
だが、次郎の性分なのか、可もなし不可もなし的なぬるま湯にじっとしていることが耐えられなくなる。今の次郎は、精彩を欠いた迷える子羊のようであった。やることなすことに気が乗らなくなってきたのである。
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