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機関経営12ヶ月
「制覇『生命保険の月』」(その2)
生保営業(募集編)
意志の勝利
  きっかけは、大塚さんと永井さんを採用した、あの気の弱い田辺さんであった。大募集月のスタート直後に、二軒の家庭から家族ぐるみで5件の契約をいただいたというから、皆がビックリしたのも無理はない。
  朝礼で成果の発表をさせたが、口べたで多くを語らない。次郎がじっくりと話を聞くと、次のようなことであった。二軒とも田辺さんの既契約者で、長年訪問し家庭内の状況はある程度知っていたが、逆にそれが災いして強く勧めることもできなかった。だが、次郎の話を聞き、必要性を気付かせ、勧めることが自分の使命と思い直し、思い切って話をしたら「あなたの勧めることなら」と快く加入してくれたという。「今でも夢のようで信じられない」と田辺さんはつぶやく。
  「田辺さんが信頼されていたからこそ、人間関係をつくりあげていたからこそなんだよ。だが、柿なら熟すれば自然に落ちるが、保険は待っていても柿のようなわけにはいかない。熟したと思ったらひと揺すりすればいい。そのタイミングを逃がさないことだね」と次郎はねぎらい、励ました。実は田辺さんは、例の休日飛び込みにも熱心に参加し、そこからの見込客からも数日後成果をあげて今月は9件で過去の自己記録を大幅に更新した。
  日ごろ四苦八苦している田辺さんが、一躍脚光を浴びた効果は測り知れない。それに刺激されたのか、大塚さん、永井さんが担当職域からまるで競い合うかのように続々と成果をあげだした。そのほとんどが他生保からの切り替えだが、6月から継続して実施してきた後援者会や地道な活動の結果にほかならない。担当職域からの成果だけで、二人合計今月13件とうい結果には、次郎もそれこそ信じがたいものがあった。
  「火事場の馬鹿力」というが、人間いざとなると底知れない力を発揮する。それが集団での波及効果となると、個人の数倍の成果となる。集団が意志を持ってひとつの目標に結集できれば、その達成は決して難しくはないだろう。今のY機関がまさにその状態であった。入社したばかりの新人から、普段は文句ばかり言っているベテランまで、いつのまにか熱気に巻き込まれ、気が付けば誰もが夢中になって活動していたのである。
  締切りまで5日を残し9割の職員が基準を達成、機関は基準どころか対前年比200%の大記録を樹立したのである。直近の7月と対比しても3倍近い成績で、採用も4名と、次郎にとって二度目の大募集月は成功裏に幕を閉じた。
管内完全制覇へ
  次郎の機関は11月を見事に乗り切ったが、他の機関がすべてそうだったわけではない。むしろ苦戦した機関が多く優劣の差がますますはっきりしてきた。機関長会議で支社長が「なぜ同じ環境下でこんなに差が生じるのか! できなかった原因は何か!」と詰問しても、皆うつむいたきりで答えがない。
  もともと昨今、基準とはあってないような存在となり、基準に対する意識や執念も果たして何人の機関長が持っているかはなはだ怪しい。だからこそ支社長は次郎に期待し「何が成功要因であったのか?」と聞いてきた。だが、先輩機関長への遠慮もあり「皆が結集し頑張ってくれたから」と極めて抽象的な発表で支社長を落胆させた。
  支社長としては、目をむくような業績をあげた次郎に自信を持って取り組んできた経緯を語ってもらい、全員の発奮材料としたかったのである。次郎としては、いくら自機関が良くても支社全体の業績が悪ければ、手放しで喜んでばかりもおれず、来月以降もコンスタントに好業績を維持できる自信もない。たまたま今月だけのフロックだと言われるのもしゃくで、発言を控えたに過ぎない。
  会議終了後、あらためて支社長からねぎらわれた次郎は、同時に次のような質問と新たな目標を与えられた。
  「Y市における君の機関の順位がどうなっているか把握しているのかね。社内の数値で一喜一憂するのもいいが、これからは目を外に向けることも必要だ。君の成功は恐らくその地域で他社がやっていないことをやってきたからに違いない。だが、油断大敵、他社もこれから巻き返してくるだろうし、常に他の金融機関の動向に注意を払い、戦略・戦術を立てる必要がある。そして、管内におけるシェアを少しずつでも向上させる。なぜならそれが営業職員の幸せに通じ、機関長の責務でもあるからだ」。
  漠然とY市での業界順位は5、6位だろうと思っていた次郎だが後日調べてみると、契約純増加高ではなんと11月単月ではトップになっており、陣容は4位だが1位との差は9名と僅少である。
  恐らく支社長は承知のうえで激励したものと思われる。
  「管内の完全制覇を目指すぞ!」
  新たな闘志がふつふつと次郎の体内に沸き上がってきた。

執筆当時と時代背景が異なっており、一部現在の状況にそぐわない記載等がありますが、機関経営の本質に変わることはありませんので、あえて原文通りとしています。
(つづく)
2009.11.30
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