次郎は急性胃かいようでの入院中も、かたときも仕事のことが頭を離れず、10日間という時の経過をひたすら待った。
一方、機関長が急きょ入院となってしまった事務所では、指示する者もなく混乱するばかりであった。急きょ、支社から若手のスタッフが駆け付けてきたが、あいにくこの時期は他にも2名の機関長が本社集合研修のため不在であったり、支社の諸行事も控えていたりと、毎日の支援は無理であった。当面の課題は、20日に予定されている後援者会の準備と、退社の不安がある2名の新人へのフォローである。
それを含め、機関におけるさまざまな問題や課題はこれまで次郎が一手に処理してきた。そのよりどころを急に失った組織は下手をすれば空中分解しかねない。組織長や職員たちは、どうしていいのか分からず、ただいたずらに時は過ぎた。
次郎が入院して4日目の朝礼後のことである。組織長候補の大塚さんが突然、皆に呼びかけた。
「皆さん、ちょっと私の話を聞いてください。機関長が入院した今、一番大事なことは私たちでこの機関を立派に守っていくことではないでしょうか? 先生の話では余計な心配をさせることが最も病気には悪いとのことです。機関長が出社してきたときに、会社の状況が悪かったらどうなるでしょう? 機関長の一日も早い回復を願うのなら、私たちが結束してこの事態を乗り切っていくべきではないでしょうか? お願いします! 協力してください!」
最初はあぜんとして聞いていた皆も、熱心に訴える大塚さんの言葉に胸を打たれ、最初は小さな拍手が、そしてついには大きな拍手が沸きおこった。それは11月に爆発的な成果をあげたときの一体感に共通し、再び自分たちの力を思い起こさせた。
機関長が心労のために倒れた。自分たちのために、昼夜の別なく機関経営に全力を傾け温かく見守ってくれた機関長。その思いがあったからこそ今、何をなすべきか彼女たちは目覚めたのである。そして、またたく間に役割分担とリーダーが決められ、実行に移された。辞めたいと思っていた新人も、それどころではなくなり、いつの間にか後援者会の準備に夢中で取り組んでいた。
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