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機関経営12ヶ月
「タイトルを目指して」(その2)
生保営業(募集編)
得意技の披露
  今のY機関は、今年度入社した大塚さん、永井さんを中心に育成層が10名を占め、彼女たちの若々しいエネルギーに満ちている。だが、いくら意欲があっても、それだけでは営業はうまくいかない。まして「100年に一度の金融危機」、解約・失効の減少契約はとどまることを知らない。機関長としてはつい、感情的になってやみくもに減少契約を抑えようと、職員に無茶を強要することにもなる。
  もし、タイトル獲得のために、解約を一切受け付けなかったり、引き延ばしをしたら、顧客との間に立った担当者は苦境に陥る。継続率に影響するからといって失効を許さなかったら、結局扱者が立替えすることにもなろう。手段を選ばず、部下の犠牲のおかげでタイトルを獲ったとしてもむなしく、逆に信頼を失墜させ反動を受けることになる。一度、顧客から解約の申し出があれば、それを翻意させるのは並大抵のことではない。やはり、日ごろからの密着、人間関係づくりが基本で、そのためのノウハウを徹底して教えていた。
  また、いくら減少契約を抑えても、セールスマンの増収にはならず、新規契約の増産が必要であることは言うまでもない。育成層が多いだけに、契約がうまくいかなければ彼女たちの意欲も喪失し退社に結びつきかねない。育成層が多いことはまさに両刃の剣であり、大きい効果や良い結果をもたらす可能性もある反面、多大な危険性をもはらんでいる。だからこそ、自分の入院体験からも、医療保障や生活保障の必要性を訴え、顧客のニーズを把握した提案をするよう、一人ひとりの設計書に目を通し、具体的な話法などをアドバイスした。さらに、訪問結果をフォローし必要によっては同行指導を繰り返した。
  こうした次郎の姿勢や努力が徐々に実を結び、成果も出始めたのと前後して、若手を中心に夕方から自主的な勉強会が行われるようになった。テーマは「生前給付金」「手術特約」「公的年金」など毎回決められ、どう販売に結びつけるか、実体験を基に熱心な討議が行われた。個性が皆違うように、同じ保険の販売でも切り口に特徴や得意技があり、そうした成功や失敗体験はお互いに大いに参考になり刺激ともなったのである。
乾杯!
  人生においてチャンスはそう訪れるものではない。問題はその数少ないチャンスを逃さず、自分の手元に引き寄せてしっかりつかむことができるかどうかである。皆の幸せと繁栄のためにタイトルを獲る! そうした強い願望が共感を得て、締切り前ではあるが、三組織とも余裕を持って基準を達成することができた。最も困難とされた組織も、自分たちが仲間外れになるのだけは、とばかりに驚異的な粘りを発揮し次郎を驚かせた。
  締切りの日、次郎は全員に感謝の気持ちを赤裸々に話した。 「皆、本当にありがとう! おかげで組織も機関も全部揃ってタイトル獲得が決定的となった。どう感謝の気持ちを表現していいのか分からないが…」
  話の途中で熱いものがこみあげてきて何度も絶句し、不意にも涙がぽろぽろと次郎の頬を伝わった。深い感動と喜びが皆にも伝わり、手を取り合って泣き出す輪もあり、一瞬の静寂が訪れた。
「みんな、乾杯しよう! 乾杯しようよ!」
  ひとりの組織長が突然叫んだ。
「この仲間を決して忘れない!」
  次郎は胸の中でそうつぶやき、再び立ち上がった。
  後日談がある。実はY機関の受賞はその決定までが難航した。12月に発生した作成契約事件が問題とされたのである。B生命では賞罰委員会で該当処分になった場合、最低でも1年間は昇給・昇格や受賞の対象外とする旨の内規が存在していた。だが、Y機関の1年間の業績はそれらを帳消しにしても余りあるほど素晴らしいもので、支社長の後押しもあり、全国第二位の受賞の栄誉に輝いた。
  困難な目標に挑戦し達成したときの喜びと感動、部下と共に働き悩み、喜びを分かち合う素晴らしさ、それは機関長だからこそ味わうことのできるものなのかもしれない。全国で活動している数千名の生・損保の機関長が次郎同様、毎日、時には傷つき、絶望し、あるいは投げやりになったり、また感動と喜びに包まれたり、激しい闘志を燃やして目標に挑戦している。いつの日か、Y機関のように歓喜に酔いしれるときがくることを夢見て…。
執筆当時と時代背景が異なっており、一部現在の状況にそぐわない記載等がありますが、機関経営の本質に変わることはありませんので、あえて原文通りとしています。
(つづく)
2010.02.22
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