今年もまた春の人事異動の時期が訪れた。支社では支社長の他、2名のスタッフと3名の機関長が異動することとなり、新年度を控え何となく慌ただしく落ち着かない。支社長には随分怒られ、厳しい指導を受けたが、経営のノウハウや考え方について多くのことを学んだのも事実である。今となっては、夜遅くまで議論を交わした会議も懐かしく、一年間共に働いた機関長仲間と別れるのも寂しい。と同時に、所在地の機関が閉鎖、統合されるなど、厳しい現実をあらためて認識させられた人事でもあった。
だが、次郎の機関にとっては、直接関係するものではなく平穏無事に3月を迎えられると思っていた矢先、思いもかけない事態が起こった。いまや若手のホープで来月大塚さんと共に組織長昇格が内定している永井さんのご主人が転勤の内示を受けたのである。転勤先は関西で、月末には家族揃って引っ越しせざるを得ないという。手塩にかけて育てた組織長がいなくなる、次郎の受けたショックと落胆は大きいが、彼女が採用した新人や所属員に与える影響は図りしれない。永井さんの夫は大手メーカーに勤める管理職だから、当然いつかは異動の時期がくることは予想された。だが、この地に赴任してまだ3年目であり、慣例からすれば当分異動はないものと思われていた。それにできればここに永住したいという希望を持って当地を望んだ経緯もある。しかし、不景気の影響はこのメーカーも直撃し、Y市の工場は縮小されることとなったのである。完全な閉鎖こそ免れたものの、下請けや関連会社への影響も懸念される。あまりに急な転勤で永井さん自身も動転していたが、仕事もすっかり軌道に乗ってきたことだし、できれば転勤先でも継続してやってみたいと次郎に伝えた。
まさか、ご主人と別居してでも組織長として頑張ってほしいと説得するわけにもいかない。泣く泣く、次郎は転勤先の機関を調べ転属の手続きを進めるしかなかった。そして気を取り直し、永井さんに代わる組織長を誰にすべきか思案した。
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