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FPのひとりごとG
「マイホームのコスト」
 
「マイホームのコスト」
  景気低迷で給料やボーナスが減り、「住宅ローンが払えない!」と悩む人が増えているらしい。不景気では仕方ないという見方もあるだろう。しかし、FPとして仕事を始めて12年目になるが、多くの人々の家計を見ていて、そもそも数千万円の借金を背負うことになることの重大さをわかっていない人が多く、いつかこんな事態に陥るのではないかと感じていた。
  私たちFPが、呪文のように「頭金は2割以上」「ローン返済は収入の25%まで」「返済可能額は(高めの)固定金利で算出して」と唱えても、「家賃がもったいない」「それではいつまでたっても家を買えない」と強引に購入してしまう人は後を絶たない。

  電卓をたたいて計算してみてほしい。例えばマンションを購入して、3,000万円を3%、35年で借りたときの年間返済額は138万5,000円。10年間では、1,385万円だ。これだけ払っても10年後のローン残債は2,435万円。10年間でローン残高は565万円しか減らない。差引き815万円(年平均81万5,000円@)は利息支払いだ。
  マンションを買ったあとにかかるコストはローンだけではない。固定資産税が年間10万〜15万円A、管理費や修繕積立金が年間24万〜36万円B。利息@と税金A、管理費等Bで年間115.5万〜132.5万円Cのコストがかかる。マイホームを買うことで本体価格以外に支払うコストCと、現在の賃貸料を比べてみると、少なくとも「家賃がもったいないから家を買おう」ということにはならないはずだ。実際の支払い額はCに元本返済(年平均56万5,000円)や火災保険料等が加わった額になるのだから。
◆3,000万円のマンションを、全額ローンで買ったときの当初10年のコスト
  毎年 10年間合計
 ローン返済額 138.5万円 1,385万円
   (内、元本返済) 56.5万円(10年平均) 565万円
   (内、利息) @81.5万円(10年平均) 815万円
 固定資産税 A10万〜15万円 100万〜150万円
 管理費・修繕積立金 B24万〜36万円 240万〜360万円
   毎年の支払い額 172.5万〜189.5万円
   本体価格以外のコスト C115.5万〜132.5万円
※上記の他、購入時に150万〜300万円の手数料や税金を払う。
  マイホームを持つのは悪いことではないし、私はどちらといえば持ち家派だ。地域に根づいて落ち着いて生活していくには、持ち家の方がいいと思う。しかし、無理してマイホームを買ってローンが払えなくなれば、生活そのものが破たんしてしまう。

  上記のケースで、10年目にローンが払えなくて家を売ることになったらどうなるか。販売価格には広告費や業者の利益が含まれていることや、日本人は新築を好むことなどから、新築物件の価値は8割程度と言われている。つまり購入して入居した時点でマンション価格は2,400万円(3,000万円×8割)に値下がりしていることになる。地価の変動にもよるが、その後10年経過すれば通常、価値(価格)は下がる。仮に3割ダウンなら1,680万円(2,400万円×7割)だ。前述のように、10年後にはまだローンは2,435万円残っており、家を売ってもローンを完済するには755万円も不足することになる。

  もし頭金を2割(600万円)準備していれば、借入額は2,400万円に抑えられるので、返済期間を30年に短縮しても毎年のローン返済額は121万5,000円と、上記の例より年間17万円少なくてすむ。差額を貯蓄すれば10年間で170万円残り、しかも10年後の残債は1,824万円で、不足額は144万円と大幅に減る。厳しいようだが、このケースで600万円(プラス購入時費用)が準備できない人がマイホームを買うのは、とても大きなリスクを背負うことになるのだ。
  高度成長期には、買ったときより年々収入が増えていくので、貯蓄を増やして収入減に備えたり、繰上げ返済でローンの残債を減らしたりすることができた。また物件価格そのものが値上がりしていたので、「借金をしても買った方がトク」という事情があった。しかし現在ではこの常識は通用しない。この不況で、「収入が毎年必ず増える」のは一部の限られた人だけになり、買ったときより高く売れる家などほとんどない。

  これから家を買うなら、頭金をしっかり準備し、無理のない範囲でローンを組む、という基本を忘れてはいけないと思う。
2009.06.22
執筆者:山田 静江
(やまだ しずえ)
[経歴・バックグラウンド]
ファイナンシャル・プランナー/CFP(R)
早稲田大学商学部卒業後、東海銀行(現:三菱東京UFJ銀行)に勤務。
その後、会計事務所やFP事務所勤務を経て、2001年にファイナンシャル・プランナーとして独立。
現在は、ライフプラン・リタイアメントプラン、家計管理、年金・社会保険、生命保険などに関する執筆や監修、セミナー講師、個人相談を行っている。
最近の監修本に「家計一年生」(主婦の友社)、「実家のお墓、自分のお墓 これから『お墓』どうしよう !?」(オレンジページ社) がある。
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