 |
「子ども手当をめぐる論議」
民主党のマニフェストの目玉のひとつ「子ども手当」。来年度にも、まずは半額での支給が始まるといわれている。その内容は次のようなものである。
<子ども手当 概要>
◇ | 子ども1人につき、月額2万6,000円(年31万円2,000円)支給 |
◇ | 子どもが生まれてから15歳まで(中学校卒業まで) |
◇ | 所得制限は設けない |
<子ども手当の財源確保のための対応策>
◇ | 所得税配偶者控除・扶養控除の廃止(ただし16歳〜23歳未満の特定扶養控除は残す) |
これらについては、さまざまな角度からの論議を呼んでいて興味深い。
● 少子化対策としての実効性について
・ | 月々2万6,000円もらっても焼け石に水では? |
| もともと子どもが欲しくない人が、月2万6,000円もらえるからといって考えを変えることはないだろうが、子どもを持とうと考えている人には経済的な支えとなり、1人ではなく2、3人目を考えるかもしれない。それを狙っているととらえれば、的外れとも言えないだろう。 |
・ | 現金ではなく保育園などを整備してもらいたい |
| 小さな子どもがいても働く気がある人、あるいは妻が働きたいという人の多くはこう考えるだろう。だがこの資金を保育園の充足に使うとなると、今度は保育園に入れなかった人や働けない人の反感を買うことになるかもしれない。何をもって平等とするかには議論があろうが、すべての子に「平等の金額」というなら、やはり現方式が「平等」といえるのかもしれない。そのお金の使い道を考えるのは子ではなく親、という点に問題は残りそうだが。 |
● もらえない人・対象外となってしまう人からの不満
・ | 自分のときにはもらえなかったのに、「ずるい」という不満 |
| 新しい制度を導入する際には必ず出てくる声である。さかのぼって適用するわけにはいかないので、この点については「自分はもらえなかった」ではなく、「全体としていいかどうか」で判断してもらうよう働きかけていくしかないだろう。 |
・ | 独身や子どものいない人に冷たい |
| 子どもは社会全体で育てていくべきという共通認識を、もっと広めないといけないと思う。独身や子どものいない人は、自分が高齢者等の弱者になったときには、社会からの恩恵を受けることもあるのだが、子ども手当が大きく取り上げられていることで、自分達は見放された感があるのかもしれない。 |
● 所得制限の問題
・ | お金持ちには補助や手当はいらないという意見 |
| どこで線引きするかが難しい。現在の児童手当は給与収入750万〜800万円くらいが所得制限のボーダーラインとなっている。多くの日本企業の給与体系では年齢とともに収入が増えていくので、最近増えている晩産家庭では親の年齢が高いために(子が小さいときの)収入が高く、児童手当がもらえないというケースもある。子どもを早く持った人とは生涯賃金は変わらないのに、子どもを持つのが遅くなったがために手当がもらえない、というのは不公平と感じるのではないか。あるいは、自営業で収入額が一定ではない場合、所得が非常に少ない年もあって平均すれば手当をもらえる水準なのに、たまたま収入が多かった年にはもらえないという問題点も残る。
そもそも日本でお金持ちといえば、土地持ちや大家さん。土地などの資産を持っている親から継続的に経済的援助を受けていて、将来相当な資産を相続する年収500万円の人と、親からの相続財産は見込めず、むしろ面倒を見なければならない年収1,000万円の人とでは、どちらがお金持ちなのか・・・。 所得だけで判断する現状に疑問を感じることもある。 |
● 増税への不満
・ | 配偶者控除や扶養控除などの所得控除の廃止に対しての「専業主婦いじめ」「病気等で働けない家族を養っているのに」という意見 |
| これに対しては一般的に所得が少ない層からの不満が大きいようだ。
だが所得税は累進課税方式なので、所得控除がなくなると所得が高い人ほど痛手が大きい。夫婦と子ども2人の世帯で、どちらも夫のみ働いていた場合で考えてみよう。給与収入500万円の所得税率は5%で、給与所得1,000万円なら所得税率は20%(条件により多少異なる)程度である。ということは、38万円の配偶者控除がなくなることで増える所得税は、年収500万円では1万9,000円だが、年収1,000万円では7万6,000円と大きい。金持ち優遇に「ノー」と言いたいのであれば、所得控除の廃止はむしろ歓迎すべきことではないだろうか。
また、夫の収入が少なくて働かざるを得ない妻や、病気でも養ってくれる家族がいない人からは、「そもそも働かないで専業主婦でいられる人はぜいたくだ」という反論もあるようだ。
本来、国や自治体の政策や制度は、社会全体のバランスを考えて決められるべきものだから、個々人すべてを平等に扱うことは無理である。とはいえ、誰だってインタビューやアンケート等で感想を聞かれれば、自分の立場での損得による不満を話してしまうだろうし、自分に都合のいい政策を掲げる人を支持したくなるだろう。マスコミの取り上げ方には疑問を感じることがある。
消費税導入のときもそうだったが、社会全体を考えてよかれと思って行ったことがきっかけで、世間の支持を下げてしまうこともある。今回の子ども手当をめぐる議論を見ていて、政治のかじ取りというのは本当に難しいと思った。民主党がどこを落としどころとするのか、少し冷静な視点で見守っていきたい。
|
 |
2009.11.02
|
 |
執筆者:山田 静江 (やまだ しずえ)
|
[経歴・バックグラウンド]
ファイナンシャル・プランナー/CFP(R)
早稲田大学商学部卒業後、東海銀行(現:三菱東京UFJ銀行)に勤務。 その後、会計事務所やFP事務所勤務を経て、2001年にファイナンシャル・プランナーとして独立。
現在は、ライフプラン・リタイアメントプラン、家計管理、年金・社会保険、生命保険などに関する執筆や監修、セミナー講師、個人相談を行っている。
最近の監修本に「家計一年生」(主婦の友社)、「実家のお墓、自分のお墓 これから『お墓』どうしよう !?」(オレンジページ社) がある。
|
|
 |
|