>  今週のトピックス >  No.1005
注目の「医師免許更新制」は見送り
〜規制改革・民間開放推進計画に族議員の壁〜
●  ミスを繰り返す「リピーター医師」の存在が問題
  小泉政権における改革の指針といえば、何かと話題になっている規制改革・民間開放推進3カ年計画である。これは2004年度から06年度までの改革の方向性を示したもので、年度末ごとに部分改定が行われることになっている。04年度末に当たる今年の3月に、民間有識者で構成する規制改革・民間開放推進会議(議長・宮内義彦オリックス会長)が改定案の答申を提出し、25日に閣議決定がなされた。
  今回推進会議で議論された内容で、注目を集めたのが「医師免許の更新制」である。周知の通り、相次ぐ医療事故・医療過誤の中で、何度もミスを繰り返す「リピーター医師」の存在が大きな問題となっている。「こうした医師が存在するのも、医師免許に更新制がなく再教育の機会が乏しいから」という見方が強まった結果、当初は改定案の答申に盛り込まれる予定だった(報道によると、05年度中に検討し、結論を出すというスケジュールができていたという)。
●  族議員が反対  医師の問題は医師が解決する?!
  ところが、3月18日に自由民主党の行政改革推進本部会・規制改革委員会合同会議が開かれ、その席上で「医師免許更新制」がやり玉にあげられた。そもそも更新制については、医療行政に影響力を持つ厚生労働族議員が強く反発しており、結局、土壇場で削除され、代わりに「重大な医療事故を起こした医師」に対しての再教育方法を盛り込む方向となった。形として見れば、政府側が党の族議員に押し切られたと言っていいだろう。
  ちなみに医師側の団体である日本医師会は、オピニオン媒体の中で「『リピーター医師』に対しては、特別メニューによる再教育プログラムが必要」と述べ、このプログラムに沿って「『医療事故防止研修会』を早期に実現させることが慣用」としている。さらに、同オピニオンの中では「自律的制御機能」という言葉が使われており、医師の問題は医師が解決するのがスジというスタンスを強調している。
●  医師の再教育は自浄能力で信頼回復?
  もっとはっきりした姿勢が、03年10月に当時の会長である坪井栄孝氏が「13大都市医師会連絡協議会」で講演した一説にある。その場で坪井氏は「医師の免許の更新に対しての(中略)世の中の雰囲気が強まっていることは間違いない」とした上で、医師免許更新制を導入する場合は「官僚が国家試験のような形でわれわれの資格をチェックするようなことをやらせてはならない」と述べた。
  日本医師会としては、医師の再教育についての主導権を確保し、自浄能力によって国民の信頼回復に努めるというわけだ。仮に更新が認められないとすれば、その医師がいる地域医療にダメージが及ぶことも考えられる。重大事故を起こした医師は厳しく告発しつつも、それ以外については内部研修で質を確保する方が現実的だという見方もあるだろう。
  だが、さまざまな企業の不祥事例を見ても、業界団体が自浄作用を発揮しての再発防止は、どうしても劇的な効果が表れていないというイメージが強い。ここまで医療事故・医療過誤が社会不安を呼んでいるからには、一度外部から大ナタを振るってもらう方が、国民の理解を得やすいのではないだろうか。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2005.03.28
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