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介護保険法の改正審議、波乱の幕開け
〜“廃案”や“強行採決”の様相も〜
●  初日から混乱の審議始まる
  4月1日、衆議院厚生労働委員会で介護保険法改正案の審議が始まった。これから夏場にかけて週2〜3回のペースで審議が行われるが、初日から大荒れの様相を呈している。
  議論の焦点となっているのは、法案に記された「新・予防給付」、つまり「介護予防」についてである。現行の介護保険サービスに介護予防を主眼とした新たなサービス体系を加え、「要支援1・2」という新たな認定区分に該当した人に、介護サービスではなく介護予防サービスを提供するという部分である。
  審議が混乱しているポイントは、大きく分けて三つ。一つは、この新・予防給付を導入する根拠となったデータが厚生労働省によって恣意(しい)的に選別されているという点。二つめは、現在全国で行われている介護予防モデル事業の効果が、未測定の段階で法案が提出されてしまっているという点。三つめは、具体的な予防サービスの内容が、厚生労働省が掲げる事例以外、何も示されていないという点である。以前から懸念されていたことではあるが、どんな介護予防サービスを、どんな根拠で導入するかということがあまりに不明確で、野党議員の一部からは「これでは審議できない」という声さえ上がっている。
●  厚生労働省のあいまいな答弁に野党が反発
  1点目のデータに関する部分であるが、法案のガイドラインが出された当初、厚生労働省はある特定の都道府県のデータを持ち出し、「軽度の要介護者が現行の介護サービスを受けている中で、要介護度の維持・改善が見られない」と分析している。そして、これが現行のサービス給付を制限し、代わって新・予防給付の対象とする根拠になっていた。
  ところが、皮肉なことにその後、厚生労働省が全国調査を行なった2003年度のデータでは、そうした傾向がまったく見られない。つまり、現行のサービスであっても十分に要介護度の維持・改善が見られていることが明らかになったのだ。このデータについてまったく触れられずに法案提出がなされたことが、野党の不信感を煽ってしまったのである。
  2点目のモデル事業による効果測定に至っては、その検証データの提出について「市町村からデータが上がってくるのは4月11日で、検証はそれ以降」という答弁が厚生労働大臣からなされた。すでに法案審議が始まっているにもかかわらず、「根拠となるデータはまだ上がっていない」という趣旨の答弁で委員会が納得するはずがない。
  3点目についても、具体的なサービスについて何ら示されておらず、官僚や大臣の答弁から出てくるのは「法案はあくまで骨子にすぎない」という趣旨の答弁ばかり。改めて法案としての体をなしていないことが、徐々に明らかになってきている。
●  審議の混乱で強行採決の可能性
  現状では、野党議員による審議拒否が起こり、最終的には強行採決というパターンに入り込む可能性も十分にある。年金改革法案とまったく同じ状況になりつつあるのだ。国民の年金不信がいまなお渦巻いている要因の一つに、あの年金改革法案の強行採決シーンが尾を引いていることは間違いない。介護保険が同じ道を歩むとすれば、現国会の主役として持ち上げられている郵政改革法案など、どこかに吹き飛ばされかねないだろう。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2005.04.11
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