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障害者雇用促進法の改正について
〜法定雇用率に精神障害者が加わる その実効性は?〜
  郵政民営化法案で揺れる現国会だが、その一方で社会保障関連の重要法案も次々と上程・審議されている。介護保険法改正案(こちらは与野党の折衝により、4月中の委員会通過が濃厚となった)、障害者自立支援法案の二つについては、当トピックスでも何度か触れてきたが、実はもう一つ注目すべき法案が衆議院において審議されている。それが障害者雇用促進法の改正案である。
  障害者雇用促進法といえば、企業の障害者法定雇用率などを示した法律であるが、今回の改正においては、この法定雇用率にうつ病などを患う精神障害者も含めるとした点が大きなポイントとなっている。
●  在職中の精神障害者は5万人、そのうち25%は採用後に罹患
  現在、障害者の法定雇用率は全従業員の1.8%となっているが、この対象となるのは知的・身体障害者のみとされ、精神障害者は含まれていない。その一方で、現在、在職中の精神障害者は5万人を超えるとされ、そのうちの25%が採用後に障害を持つに至ったというデータがある(旧労働省調査より)。そうした人々の多くは、長期の治療休暇などを経た揚げ句に解雇されるなどの不安を抱えつつ、再就職もままならない状況に置かれている。
  今回の改正案によって精神障害者が法定雇用率に算定されれば、うつ病などを発症することによる離職を防ぐことができるという狙いがある。社会構造が大きく変化する中、だれもが精神のバランスを崩す危険が増している現代社会では、今回の改正は大変重要なセーフティネットの一環となるだろう。
  しかしながら、今回の改正案が精神障害者の社会的安定をどこまで保障するかといえば、悲観的な見方が少なくない。
●  法定雇用率の引き上げのための具体案が求められる
  まず問題なのは、全体の法定雇用率が1.8%のまま据え置かれたという点だ。全体の雇用枠が増えなければ、精神障害者の雇用が確保された分、今度は知的・身体障害者の雇用が抑えられる懸念が生じてくる。
  周知の通り、法定雇用率を達成できない企業(常用雇用労働者数301人以上)は、障害者1人につき5万円の納付金を納めれば、1.8%の法定雇用率は実質免除される。そのため、法定雇用率が適用される企業の平均雇用率は1.46%という低い数字に留まっているのが現状だ。そうした状況下で、法律の実効性がどこまで高まるのかは疑問の余地が大きい。
  ちなみに、今回の改正で法定雇用率の対象となる精神障害者は、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けていることが要件になる。逆に言えば、障害の等級にかかわらず、手帳さえ交付されていれば法定雇用率の対象となるわけだ。例えば、企業の中には「比較的軽い精神障害者」を優先的に雇用し、その結果、重度の精神障害者や知的・身体障害者が雇用からはじかれるとなれば、法律自体が逆行することにもなりかねない。
  国は「将来的に法定雇用率の引き上げを視野に入れる」としているが、一刻も早くそのスケジュールを具体化することが、障害者全体の雇用を確保するうえでは欠かせないポイントとなってくるだろう。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2005.04.25
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