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介護保険法改正案が衆院厚労委員会通過
〜10月から負担増がはじまる?〜
●  付則決議で妥協した野党の国会戦術
  成立が危ぶまれていた介護保険法改正案だが、一部に付則決議などを盛り込むことによって最大野党の民主党が合意、4月27日に衆議院予算委員会を通過した。付則決議では、焦点となっていた「予防給付・地域支援事業」について、「施行後3年を目途に効果を測定し、その結果によって必要な措置を講ずる」ことが盛り込まれることとなる。
  とはいえ、法案本体がそのまま通過することに違いはない。野党側としては、「原案のまま与党の賛成多数で議決されてしまうよりも、付則決議という"修正"を条件として賛成に回った方がまだまし」という事情があった。さらに一歩踏み込むと、そもそも今回の法案は本当の骨格しか定められておらず、それゆえに「ここで賛成に回っておいた方が、その後の実務面の決定に際して発言力を持つことができる」という計算もあったのだろう。
●  利用者不在の議論に疑問
  国会戦術としては、確かに「仕方ない」対応だったかも知れない。だが、利用者となる国民の一人としてはどうも釈然としないものがある。このコーナーでも何度か述べてきた通り、今回の法案策定については最初から最後まで利用者不在のまま進んできた。その結果、「まず給付抑制ありき」という色合いが濃いにもかかわらず、国民的な議論が一向に巻き起こらないという現象を生んでいる。
  そうであるなら、たとえ強行採決という流れになったとしても、そのドタバタがマスコミに取り上げられることで議論を盛り上げる方がまだマシと思えたりもする。
  いずれにせよ、法案がこのまま可決成立したとして、10月にはさっそく介護保険三施設における自己負担増が始まる。実は、この部分でも、法案をよく読むと国民の理解を得にくい理屈が随所で目につく。
●  理念と矛盾した負担増の構造
  一般のマスコミ報道などでは、「施設と在宅における給付の公平を図るため、施設サービスにおける居住費用と食費を全額自己負担とする」という概略だけが紹介されている。だが、正確に言うとこれは正しくない。
  例えば、介護保険施設がショートステイやデイサービスといった「在宅サービス」も併せて提供している場合、ショートステイでも居住費用にあたるホテルコストと食費が、デイサービスでも食費が全額自己負担になるのだ。つまり、正確には「施設サービスにかかる自己負担増」ではなく、「施設が行うサービスについての自己負担増」なのである。「施設と在宅における給付の公平を図る」という理念とは明らかに矛盾している。
  こうした点が徐々に明らかになってくれば、当然のごとく介護保険に対する国民不信は一気に高まるだろう。将来的に「若年層への給付拡大に合わせて、保険料の負担層も広げる」ことが打ち出されているが、このビジョン自体が瓦解する危険性をはらむ。まさに年金不信と同じ構造が生まれようとしているのだ。
  今からでも遅くない。今回の法案をもとに介護給付費や個別省令などを決めていく過程において、できる限り利用者側の参加をうながす仕組みを作っていくべきだろう。もちろん、国民の側も自らの問題として関心を高めていくことが求められる。来るべき超高齢社会を前に、国をあげての正念場が訪れている。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2005.05.09
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