> 今週のトピックス > No.1037 |
![]() |
厚生労働省が「医療行為」の範囲見直し案を提示 |
![]() |
〜介護現場の懸案解消なるか〜 |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() ● 介護現場における医療行為
今年3月、厚生労働省から「医師法第17条および保健師助産婦看護師法第31条の解釈について」と題する都道府県知事向けの通知案が提示された。平たく言えば、「医療行為の範囲の見直し」を示した通知案である。4月末まで厚生労働省のホームページ上で公開され、同案について一般からの意見募集が行われた。
介護現場における利用者は、その多くが何かしらの疾患を抱えている。その療養上の世話をする主役といえば、ホームヘルパーをはじめとする介護職である。彼らは医療・看護の専門職ではないため、医師法や看護師法に示された医療行為はできない。だが、現場で発生するニーズの多くには、医療行為と目される行為が多々含まれている。 ![]() ● 曖昧な<医療行為>の定義
問題の一つとしてあげられるのが、そもそも「医療行為とは具体的に何を指すのか」という定義が曖昧な点だ。元来、厚生労働省側から明確なガイドラインが示されたことはなく、現場からの問い合わせに対して個別に応える形で"医療行為の範囲"が整えられてきたに過ぎない。これでは「YES・NO」という紋切り型の回答だけが現場に流布することになり、時にナンセンスな事態を生む。
例えば、過去の回答事例において医療行為とされたものの中には、「爪切り」「湿布・軟膏の塗布」「血圧・体温の測定」など、一般人が日常的に行っている行為も含まれている。確かに、利用者本人が抱える疾患によっては重大な危険をおよぼす事例もあるだろうが、主治医などによる的確な指示が伝わっていれば十分対応できるはずだ。だが、紋切り型の回答では、そうしたバックアップの仕組みや必要な専門技能などについての議論は深まらず、利用者に対して「できません」と突っぱねるか、「これくらい大丈夫」と曖昧な判断でこっそりとやってしまうか、という対応の二極化が進むことになる。 ![]() ● 介護職研修に反映させる仕組みづくりが急務
今回の見直し案では、医師法等の規制対象外行為が一般的な表現として明確に示された。例えば、爪切りについては「爪そのものに異常がなく、爪の周囲の皮膚にも化膿や炎症がない場合に、その爪を爪切りで切ることおよび爪ヤスリでヤスリがけすること」と明文化されている。現場のヘルパーなどからは、「現状追認に過ぎない」という声も聞かれるが、少なくとも議論を深めるためのたたき台が初めて整ったという点では評価していいだろう。
重要なのはこれからである。仮に今回の案が正式な通知として発行されたとして、早急に進めなければならないのは、このガイドラインを介護職の研修に反映させるという仕組みづくりだ。この対応が遅れると、専門的な技能が伴っていない介護職でも、もはや利用者ニーズを断る根拠を失うことになる。これではかえって現場の混乱を助長するだけだ。 今回の通知案では、爪切り以外にも、例えば「自己導尿を補助するためのカテーテルの準備」なども、医師法等における「規制の範囲外」として明確に示された。これなどは専門的技能や医療・看護職との連携といったバックアップを欠かすことはできない。介護職を、そして利用者を守るためにも、次の一手が待たれるところである。 ![]() (田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
|
![]() |
![]() |
![]() |
2005.05.23 |
![]() |
|