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長者番付に登場した意外な人物
〜高額納税者番付に浮かぶ“兵どもの夢の跡”〜
●  意外な人物の名前は…
  国税庁は5月16日、2004年の確定申告で所得税額が1000万円を超えた高額納税者、いわゆる長者番付を公示した。並み居る富豪たちを抑えてサラリーマンK氏が堂々1位に輝くなど様々な話題を提供してくれたが、私はこの長者番付で意外な人物の名に出会った。63位に登場したN氏(84歳)その人である。同氏は群馬県に本部を構えるパチンコ機器メーカー「H社」の名誉会長を務める重鎮。そのN氏が3億9000万円の納税額で長者番付に名を連ねたのだ。
  納税額の大半は雑所得から生じたもので、多く納めすぎた所得税の還付の際に生じる利子相当である「還付加算金」として、約10億円を受け取ったことにより発生した。これは、平成4年、当時個人最大であった500億円の申告漏れを指摘され、裁判でその課税処分の一部取り消しが決定したことに伴って当局よりN氏が受け取っていたものである。
●  無利息貸付に対する課税の適否が争われた「H社事件」
  N氏が平成4年当時に指摘された500億円の申告漏れについて詳細を解説しよう。
  まず、N氏は平成元年、「H社」の株式3000万株を関連会社のN興産に売却した。ところが、その売却代金3450億円の資金がN興産にはなかったため、N氏から借り入れている形にした。この借入金(N氏から見た場合は、N興産への貸付金)については、無期限・無利息としていた。税務関係の書物に「個人から法人への無利息貸付は課税されない」と記述してあったことから、N氏自身がそう判断したようだ。しかし、これに対して税務当局は、「事例として取り上げられているのは、500万円の運転資金の貸付で、今回の場合とは状況が異なる」という見解を示したのだ。
  税務当局は、これほど巨額の貸付は不自然・不合理であり、その貸付期間である平成元年からの3年間についてN氏が受け取るべきであった受取利子相当分約500億円を申告漏れと指摘。過少申告加算税なども含めて約270億円を追徴課税した。
  N氏の提訴により、争いは法廷の場に移り、平成11年、東京高裁は270億円の追徴課税のうち、所得税と加算税の合計である約10億6000万円については過度な税金の徴収であるとして、課税を取り消す判決を下した。
●  税をめぐる激闘のエピローグ
  判決を不服とした課税当局側は最高裁に上告。平成16年、最高裁は巨額の無利息融資は「合理的でない」として、全体としては課税当局側を支持する判決を下した。しかしその上告時に、東京高裁が過度な税金徴収であるとした10億6000万円部分については、課税当局は上告内容に入れていなかった。
  そのため課税当局は、課税を取り消された10億6000万円を平成16年に還付した。それに伴って発生する平成4年から還付されるまでの期間に対応した「還付加算金」約10億円もあわせて、N氏に還付した。その還付加算金(税務上は雑所得扱い)に対応する納税額が、冒頭の3億9000万円というわけだ。
  こんな形で長者番付に登場するとは、本人もさぞ驚いているのではないだろうか。
(今村 仁、今村仁税理士事務所代表、税理士、宅地建物取引主任者、1級FP技能士)
2005.05.30
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