> 今週のトピックス > No.1045 |
社会保障給付費に管理指標を導入 | |
〜政府VS厚労族に新たな火種?〜 | |
● 急伸する社会保障給付費をどう抑えるか
6月1日、政府の経済財政諮問会議が「骨太の方針2005」を策定するための討議に入った。小泉政権が誕生してから毎年策定されている「骨太の方針」であるが、これがその年の予算編成の基本方針になっている。中でも、ここ数年は「伸び続ける社会保障給付費をいかに抑えるか」が大きなテーマとなり、実際に様々な社会保障制度改革を進めるうえで大きな影響力をおよぼしている。
そして現在、介護・医療を中心とした制度改革を進めるうえで、「課題」として突きつけられているのが「社会保障給付費の伸びを抑えるための管理指標の導入」である。つまり、少子高齢化によって急伸する社会保障給付費に数字的な枠をはめようというものだ。 ● 管理指標をめぐる攻防
この管理指標については、大学教授などの民間議員から、名目GDP(国内総生産)の伸び率に高齢化の進み具合を加味した「高齢化修正GDP」が具体案として示されている。これに対し、厚生労働省側は「医療費をはじめとする社会保障給付費は、GDPなどの経済指標に左右される性質のものではない」という反論を展開してきた。
しかしながら、管理指標の導入をかたくなに進めようとする政府側に押される形で、厚生労働省も「何らかの指標づくりは避けられない」と判断し、来年度に向けて改革案を策定する予定の医療制度に盛り込むことを検討し始めている。「どうせ指標づくりをするのなら、今のうちから主導権を握っておきたい」という意向が働いているのだろう。 ちなみに、6月1日の会議では、尾辻厚生労働大臣から「社会保障制度の一体的見直しについて」という資料が提出された。その中で「自然増による医療費の伸び自体を抑える構造的な対策が必要」としたうえで、「GDPとは切り離した目標値設定」を主張している。あくまで管理指標の導入に待ったをかけ、目標値設定という権限を厚労省側に残しておきたいという思惑が読み取れる。 同日開催された与党の厚生労働部会・社会保障制度調査会合同会議に至っては、「管理制度そのものの導入反対」で一致している。郵政民営化と同じく、ここでも政府と族議員間の対立が深まりつつあるわけだ。 ● 暗闘のフィナーレは行政権限の肥大化?
さて、この「管理指標を巡る攻防」の着地点はどこにあるのか。恐らくはGDPをベースとした管理指標の導入は避けられず、その代わりに細かい制度施行令の中で厚生労働省側の管理権限を残すという方向に落ち着くのではないだろうか。つまり、大枠では規制緩和が進むように見えて、現場レベルでは行政権限が強化されるという構図である。
実は、現在審議されている介護保険法の改正案が、まさにこの構図にある。介護予防の範囲を広げ、そのマネジメントを地域包括支援センターという行政主導の拠点に集中させるというものだ。 小泉政権が「小さな政府」をスローガンにする陰で、実は行政権限の肥大化が起こりつつあるとすれば、こんな皮肉な話はない。このアンバランスな構図が続く限り、少なからぬしわ寄せが現場の当事者に及んでくることは間違いないだろう。 (田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
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2005.06.06 |
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