>  今週のトピックス >  No.1053
ある報道の衝撃
〜「訪問介護に定額制!?」〜
●  来年度介護報酬改定で訪問介護が定額制に!?
  5月3日、共同通信社が「訪問介護は定額払い制」という見出しの記事を配信した。記事内容を要約すると、「06年度に予定されている介護報酬改定において、訪問介護(ホームヘルプサービス)の報酬体系を、サービス内容やその組み合わせによって額が決まる定額制にする」というものだ。記事では、上記の内容について「厚生労働省が方針を固めた」という表現で記されている。
  現行の訪問介護サービスは、どれくらいの時間と回数を訪問したかによって報酬が決まる仕組みになっている。身体介護と生活援助(家事援助)という種類はあるものの、基本的には(限度額の範囲内において)利用された分だけ報酬が発生する。利用者の自己負担は原則として介護報酬の一割であるから、利用者側は「使った分だけ支払う」わけだ。
  これが定額制になるということは、利用者側から見れば「どんなにサービスを使っても金額は同じ」ということになる。インターネットの定額サービスなどを想像すると、一見「ありがたい」話のように思える。
  だが、事業者にとっては、サービス時間のかかる重度の要介護者でも、時間のかからない軽度の要介護者でも「料金は同じ」というケースが生まれる可能性もある。となれば、「スケジュールが合わない」などの理由をつけて、重度の要介護者を敬遠する事業者が増えかねない。利用者側にしてみれば「サービスを選びにくくなる」空気が強まるわけだ。
●  報道の裏側に潜む“意図”
  この記事が出た直後から業界内は大騒ぎとなり、厚生労働省に問い合わせが殺到した。だが、省側は「そうした内容を決めた事実はない」と否定、3月に始まった社会保障審議会の介護給付分科会においても「諮問した事実はない」としている。では、この記事は誤報だったのか。それとも、省内では既に記事のようなことが密かに決められていて、それを役人が記者にリークしたのだろうか。
  一連の騒ぎで思い出すのは、昨年某大手新聞が発した「ホームヘルパー資格を廃止して介護福祉士に一本化する」という記事である。この時も業界内は大騒ぎになり、やはり厚生労働省は「そのような事実はない」と記事を全面否定した。ところが、その後に同省から出された介護保険制度改革案では、「介護職員については、将来的には介護福祉士を基本とする」と明言されている。つまり、大きな流れでは記事の内容は的を射ていたことになる。
●  マスコミを利用した世論誘導に目を光らせよ
  長年、ジャーナリストとして活動していると、役人のマスコミ利用の巧妙さが目についてくる。つまり、「ややショッキングな改革情報をリーク」→「世間が大騒ぎとなり、様々な議論が巻き起こる」→「その反応を見ながら落とし所を探る」という流れである。今回の記事もこの流れに沿ったものだとするなら、全利用者に定額制を導入するところまではいかなくても、財政圧迫の槍玉に挙げられている軽度の要介護者に絞って「定額制を導入する」というあたりの着地点を狙っているのではないだろうか。様々な社会保障政策が分岐点に差し掛かっている今日、利用者側としても新聞記事等の裏側を読み込む眼力が求められる。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2005.06.20
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