>  今週のトピックス >  No.1061
自立支援医療制度がもたらす波紋
〜新たな火種抱える障害者自立支援法案〜
●  新しい自立支援医療とは何か
  さる6月22日、厚生労働省において「自立支援医療制度運営調査検討会」を傍聴する機会を得た。現在国会において障害者自立支援法案が審議されているが、同法が成立した場合、利用者負担の見直しに関する事項のうち、自立支援医療にかかるものに関しては、平成17年10月から前倒しされる形でスタートする。今回の検討会では、新しい自立支援医療制度について、その範囲や要件、医療の提供方針などの具体的な中身を検討することとなる。
  自立支援医療とは一体どのようなものなのか。
  審議中の障害者自立支援法案の条文に照らせば、「心身の障害の状態の軽減を図り、自立した日常生活または社会生活を営むために必要な医療」とされている。
  そもそも現行制度においては、身体障害者福祉法における更生医療、児童福祉法における育成医療、さらには精神保健福祉法における精神通院公費という具合に、障害の状態に応じて適用される医療制度は異なっている。身体・知的・精神という3障害にかかる制度を自立支援法において一体化させるのに合わせ、バラバラだった各医療制度も一本化を目指すというわけだ。
●  増大する利用者負担
  社会保障制度において、「一本化」、「統合」という言葉が出てくる場合には、往々にして「利用者負担の増加」を伴う。今回の制度改正においても負担額の多い所を基準としながら、さらに「応能負担から応益負担へ」という流れで、利用者負担が増やされることになる。
  一番割りを食うことになるのは、以前、本欄(今週のトピックスNo.981参照)でも指摘したように、うつ病や統合失調症などの精神疾患によって通院している人々である。
  現行の精神保健福祉法32条においては、患者本人の医療費負担は原則5%。月平均の医療費が3万2000円というデータによれば、自己負担は約1600円ということになる。これが新制度に移行すると原則1割が採用され、一定所得以下の人で負担上限額が2500〜5000円(生活保護世帯は0円)、中間所得世帯で5000〜1万円、所得税額30万円以上の世帯になると2万円となる。
  問題なのは、中間所得以上の世帯において5000〜2万円という上限額が設けられるのが「重度かつ継続的に医療費負担が発生する」というケースに限定されることだ。この定義に当てはまらない場合は、中間的な所得世帯において1割負担、所得税30万円以上の世帯においては通常の医療費の3割負担が適用されることになる。
●  範囲指定で混迷する審議
  では、精神疾患の場合、どんな疾病のどのような状態を指して「重度かつ継続」という定義を当てはめるのか。実は、障害者自立支援法案の審議が混迷している要因の一つが、この範囲指定についてなのだ。
  当初、厚生労働省は「統合失調症、狭義の躁うつ病、難治性てんかん」の3つを対象にしていたが、当事者や医療関係者などから「あまりに狭すぎる」という反発を受け、「臨床実態に関する実証的研究結果を踏まえ、対象の明確化を図る」(尾辻厚生労働大臣)とした。今回スタートした検討会は、まさにこの「明確化を図る」ことを目的としたものと考えてよい。
  第1回の検討会では、厚生労働省側が依然として「3疾患を対象としたい」という思惑をのぞかせており、現場の医療機関から疑問の声が投げかけられた。
  現在、本体の自立支援法案は野党側が反対の姿勢を明確にしているが、省内においても新たな火種を抱え込む可能性がある。今後の展開に注目したい。
(田中 元、医療・福祉ジャーナリスト)
2005.07.04
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